エスメラルダ
 数日後、都より幾分南にあり、その美しさで知られるエリファスに馬車は到着した。
 幼いレイリエは……と、言ってもとうに十四を数えていたのだが……兄を迎える為に精一杯のお洒落をして車寄せに向かった。
 銀髪を結い上げることが許されるには、まだあと一年待たなければならなかった。その代わり少女は、前髪を上げて、アイスブルーのリボンで飾った。ドレスもアイスブルー。ショールには銀糸で花が縫い取られている。
 頬をつねって唇を噛む。少しでも紅く見せる為に。
 そんな小細工こそが兄の心を捕らえる邪魔をしているのだと悟れる程レイリエは大人ではなかった。
 侍女も従僕も押しのけて、レイリエは車寄せの前に立ち、ただひたすらに兄を待つ。
 馬のいななき。
「帰ったぞ!」
 ランカスターの叫び。
 レイリエは、近づいてくる馬車に向かって走り出したいのを必死で堪えながら、馬車が車寄せに止まるのを待った。
 そして馬車の扉が開く。
「お兄様!」
 レイリエは呼びかけて扉に向かった。
 だが。
 ランカスターは身軽に馬車から飛び降りるとエスメラルダを抱きかかえる為にレイリエから顔を背けた。
 そして、エスメラルダはランカスターの腕に抱かれ、緋蝶城に入城した。
 レイリエはついに、兄に一言も言葉を貰う事が出来なかったのである。
 首筋から足の先まで毛布にくるまれた少女が、レイリエの生涯の敵となった。
「ランカスター様、歩けますからどうか」
 エスメラルダの懇願を、ランカスターは聞かない。エスメラルダには首都からここまでの旅は過酷過ぎた。
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