エスメラルダ

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 案の定、エスメラルダは熱を出して倒れた。
 最初の夜はただ泣きじゃくっていたのだが(見ていたのはマーグだけで彼女は勿論口を硬く閉じていたのだが、赤く腫れ上がった瞼や頬の汚れに気付くなという方が無理であろう)翌朝から、エスメラルダは意識を失う程の高熱に喘いでいたのである。
 帰還祝いのパーティーも何もかもが中止された。ランカスターがエスメラルダの側を一歩も離れようとしないからだ。まるで自分が離れたらエスメラルダが死んでしまうというように。
 レイリエは面白くなかった。
 いつもレイリエは王女様のように君臨していた。それなのに、人々の関心の全てが、エスメラルダに向かっているのである。
 エスメラルダが起き上がれるようになったのは三日後の事であった。
 そして、神に二つの全く異なった祈りが捧げられた。
 アシュレ・ルーン・ランカスターからはエスメラルダの命を救い給うた神に対する感謝が。
 レイリエ・シャロン・ランカスターからはエスメラルダを黄泉路に誘い込まなかった神に対する怨嗟が。
 エスメラルダは何も知らなかった。
 ただ、日々をベッドで送った。
 健康になったと自分が判断するまでベッドから離れてはならぬとランカスターに言い含められていたのだ。
 エスメラルダの知らないうちに城の増改築が行われていた。
 そして、エスメラルダが初めて夜会に出席できる程体力が戻った時、いつもエスメラルダの意志を尊重する彼が強引にも夜会の場へと彼女を連れだした。
 エスメラルダは、嫌な予感がした。
 夜会に出席したくない理由はそれだけではなかった。
 まだ、エスメラルダは喪中なのだ。喪中の女がそのような晴れがましい場面に出てどうするというのだろう? ランカスターはエスメラルダの事を、常識をわきまえぬ女として笑い者にしたいのだろうか?
 最後の抵抗として自分が着てきた喪服を着ると言ったら、あれは破かれていてぼろ布のようだったから捨てたと答えが返ってきた。そして、エスメラルダの前に、何着もの新たな喪服が用意されたのである。
 毛皮で縁取りをしたもの、ビーズが縫い付けられているもの、絹、サテン、レース、リボン、フリル。
 それはエスメラルダの目からすれば華美に過ぎた。しかし、仕方ないのでその衣装に手を通す。  その夜に彼はこう宣言したのだ。
 エスメラルダ・アイリーン・ローグを、彼女が十六になったら妻として迎えると。



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