エスメラルダ
エスメラルダの気持ちは高揚していた。『審判』など何も恐れる必要が無いと思った為か心が軽い。そうなると神殿から王城までのパレードも楽しむ余裕が出来た。
王城に帰り、エスメラルダは別室へ通されるがブランシールとレーシアーナは沢山の臣下に囲まれて帰城の報告を果たした。
王と王弟では天と地ほども身分が違う。
同じ女の腹から生まれ出でたのに。
だが、フランヴェルジュはそれを寂しく思っているがブランシールはまったく苦痛に思っていない。
貴方が至尊の地位に在る事が何より嬉しく思います。兄上。
後は隣に最高の女が座ったならば問題ない。
だが、その為にあれこれ画策するのはもうやめようと思う。
そう思うと、楽だった。……楽?
ブランンシールは淡々と挨拶を述べながら混乱していた。
僕は間違えていたのか? 兄上の御為。それが僕の幸せだった筈なのに役目を放棄した今の方が『楽』だなんて。
兄上!
僕の兄上!!
「つつがなき日を過ごしていたようで兄として嬉しく思う」
ブランシールは粘つく嫌な汗をかきながら畏まった。
全て台本どおり。
自分の挨拶もフランヴェルジュの言葉も。
だが、そこに予定外の言葉が入った。
「底に控えおるレイデン侯爵令嬢との婚儀の日を王として定める。そは勅命なり。我が生誕祭の翌日一月九日に華燭の典を挙げよ」
「は!」
ブランシールは左胸を叩き、深く頭を垂れた。
レーシアーナも頭を下げる。だが身重ゆえ腰は折らない。それが許されている。
「今宵は旅の疲れもあろう。明日、ささやかな夜会を開く。それまで城の南翼でゆるりと休むが良い。謁見の義はこれにて解散とす」
玉座から、フランヴェルジュが立ち上がった。家臣達が一斉に平伏する。
足が沈んでしまいそうな絨毯の上をフランヴェルジュは滑るように歩いた。
フランヴェルジュは本当は走り出したい。
城の南翼にあるエスメラルダに与えられた部屋へと。だが、それは出来ない。
エスメラルダとの婚約は公的なものではないからだ。
心は繋がっている。だがその心が急く。
まだだ。
まだ駄目だ。
時期を待たなくては。
少なくとも発表は弟と自分のお気に入りの少女が結婚してからになる。
でないと全精力が国王の華燭の典に注がれてしまい弟達の婚儀がみすぼらしくなる事であろう。
一生に一度のことだ。出来る限り華々しく、この国の国政を担う者としての華燭の典としてやりたいではないか。
レーシアーナにも美しい衣装を着せてやりたいとフランヴェルジュは思う。美しい娘なのだ。磨けば更に光るであろう。妊娠中というのが惜しい。腹が目立つのは仕方のない事だが何とかできないものなのだろうか?
くすり、とフランヴェルジュは笑った。
自分がそんなに心配してもどうしようもない事だし、男に女の衣装のことなどろくに解る筈もない。
弟の華燭の典に自分とエスメラルダとのそれを重ね合わせて想像しているのだという事に、フランヴェルジュは気付いた。
絨毯が途切れ、石の床の上を長靴の音を響かせながら歩く。歩みは止まらない。
国王が供もつけず出歩ける国はメルローアくらいであろう。尤も、フランヴェルジュは強い。それもあるし王城の結界の中にはそう簡単に破れない。だから人々は王の一人歩きを黙認する。
フランヴェルジュは真っ直ぐ『真白塔』に向かった。
「早かったですね、フランヴェルジュ。エスメラルダはまだですよ」
アユリカナに言われ、フランヴェルジュは落ち込んでしまった。
塔での逢瀬の約束。時間は決めていなかった。だけれども、待っていて、両手広げて待ち受けてくれている姿を想像していたフランヴェルジュにはダメージが大きい。
「もうすぐですよ。今日はあの二人に貴方達の付き合いを発表するのでしょう?」
母の言葉に、フランヴェルジュは赤くなる。
この塔はいつの間に社交場と化したのかしら? とアユリカナは溜息と共に思った。
王城に帰り、エスメラルダは別室へ通されるがブランシールとレーシアーナは沢山の臣下に囲まれて帰城の報告を果たした。
王と王弟では天と地ほども身分が違う。
同じ女の腹から生まれ出でたのに。
だが、フランヴェルジュはそれを寂しく思っているがブランシールはまったく苦痛に思っていない。
貴方が至尊の地位に在る事が何より嬉しく思います。兄上。
後は隣に最高の女が座ったならば問題ない。
だが、その為にあれこれ画策するのはもうやめようと思う。
そう思うと、楽だった。……楽?
ブランンシールは淡々と挨拶を述べながら混乱していた。
僕は間違えていたのか? 兄上の御為。それが僕の幸せだった筈なのに役目を放棄した今の方が『楽』だなんて。
兄上!
僕の兄上!!
「つつがなき日を過ごしていたようで兄として嬉しく思う」
ブランシールは粘つく嫌な汗をかきながら畏まった。
全て台本どおり。
自分の挨拶もフランヴェルジュの言葉も。
だが、そこに予定外の言葉が入った。
「底に控えおるレイデン侯爵令嬢との婚儀の日を王として定める。そは勅命なり。我が生誕祭の翌日一月九日に華燭の典を挙げよ」
「は!」
ブランシールは左胸を叩き、深く頭を垂れた。
レーシアーナも頭を下げる。だが身重ゆえ腰は折らない。それが許されている。
「今宵は旅の疲れもあろう。明日、ささやかな夜会を開く。それまで城の南翼でゆるりと休むが良い。謁見の義はこれにて解散とす」
玉座から、フランヴェルジュが立ち上がった。家臣達が一斉に平伏する。
足が沈んでしまいそうな絨毯の上をフランヴェルジュは滑るように歩いた。
フランヴェルジュは本当は走り出したい。
城の南翼にあるエスメラルダに与えられた部屋へと。だが、それは出来ない。
エスメラルダとの婚約は公的なものではないからだ。
心は繋がっている。だがその心が急く。
まだだ。
まだ駄目だ。
時期を待たなくては。
少なくとも発表は弟と自分のお気に入りの少女が結婚してからになる。
でないと全精力が国王の華燭の典に注がれてしまい弟達の婚儀がみすぼらしくなる事であろう。
一生に一度のことだ。出来る限り華々しく、この国の国政を担う者としての華燭の典としてやりたいではないか。
レーシアーナにも美しい衣装を着せてやりたいとフランヴェルジュは思う。美しい娘なのだ。磨けば更に光るであろう。妊娠中というのが惜しい。腹が目立つのは仕方のない事だが何とかできないものなのだろうか?
くすり、とフランヴェルジュは笑った。
自分がそんなに心配してもどうしようもない事だし、男に女の衣装のことなどろくに解る筈もない。
弟の華燭の典に自分とエスメラルダとのそれを重ね合わせて想像しているのだという事に、フランヴェルジュは気付いた。
絨毯が途切れ、石の床の上を長靴の音を響かせながら歩く。歩みは止まらない。
国王が供もつけず出歩ける国はメルローアくらいであろう。尤も、フランヴェルジュは強い。それもあるし王城の結界の中にはそう簡単に破れない。だから人々は王の一人歩きを黙認する。
フランヴェルジュは真っ直ぐ『真白塔』に向かった。
「早かったですね、フランヴェルジュ。エスメラルダはまだですよ」
アユリカナに言われ、フランヴェルジュは落ち込んでしまった。
塔での逢瀬の約束。時間は決めていなかった。だけれども、待っていて、両手広げて待ち受けてくれている姿を想像していたフランヴェルジュにはダメージが大きい。
「もうすぐですよ。今日はあの二人に貴方達の付き合いを発表するのでしょう?」
母の言葉に、フランヴェルジュは赤くなる。
この塔はいつの間に社交場と化したのかしら? とアユリカナは溜息と共に思った。