デュッセルドルフの針金師たち後編

ジプシーの丘

アルハンブラの宮殿の谷を隔てて向かい側が
ソクラモンテの丘だ。ジプシーフラメンコの本場だ。
是非見に行こうとマメタンと丘を登った。

南向きのなだらかな坂道沿いに、白い漆喰壁の
銅食器店がニ三軒おきにずっと坂の頂上まで、
数十軒も連なっていた。店と店との間にには、

民家がある。大きな木の扉、銅製のガランガラン
が付いている。その間の路地か民家の庭先か、
おばさんたちが洗濯やらなにやらほんとの井戸端会議だ。

小さな子ども達がきゃっきゃきゃっきゃと走り回っている。
まさにジプシー風の黒髪と黒い瞳、褐色の量感あふれる
たくましい肌。覗き込んでいたらおばさんたちにじろりと

にらまれた。おーこわ、すごい迫力だ。一番若そうな、
といっても30歳くらいのソフィアローレンみたいな
お母さんが両手を腰に当てて仁王立ち。でかい!オサムは

思わず見上げてしまった。何か言わなくちゃ。

「あー。フラメンコ、フラメンコ。見たい見たいフラメンコ。
ビバ、フラメンコ!」

と踊る振りをして右手をおでこに当てて眺めるしぐさをした。

おばさんたちは大笑い。そのでかいおばさんは笑いながら
我々を隣の隣の大きな木の扉戸に導いてくれた。
黙って下方に指をさす。

『8:PM  OPEN 』

と小さく書いてある。あ、なるほど、この中がフラメンコの
会場なのか。オサムたちは納得した。夜8時にここへ、OK!
といって手を振って別れた。なだらかな坂を下る。

ニ三軒おきにある大きな木の扉の中は皆フラメンコの会場
なのだ。谷の向こうにアルハンブラの宮殿がすばらしく
かっこよく見えた。時を越えて今もそのままだ。
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