デュッセルドルフの針金師たち後編

ビバ!フラメンコ!ジャポン!

夜が来た。まもなく八時だ。2人は坂を上り、
昼間とは全く雰囲気の違う怪しいジプシー
ムードの会場前に着いた。とても静かだ。

木の扉にはランプが灯りほのくらい中、
そこだけがボーッと明るい。

『確かここだOPEN 8:PMと書いてある』

ドアの金具をこつこつと叩く。重そうな木の扉、
ギーと音がして、隙間からフラメンコのギターの
音が聞こえてきた。

『あ、やっぱりここだ。フラメンコだ』

中は薄明かり。白い漆喰の壁と天井。
銅の食器がいくつも大小取り混ぜて
天井からぶら下がっている。

入り口からフロアで両壁に沿って、ぐるっと
半円形に座れるようになっている。入り口のドアの
脇で男の人2人がギターを弾いている。

おばさんが一人何かとても悲しげな歌を歌い始めた。
すごくジプシー風でいい。意味は分からなくても
泣けてくる。つめれば30人ほどは入れる広さだ。

二人はお金を払って、とにかく中に入った。
『あれっ?』暗くてよく見えなかったが。
『お客は?えーっ、俺達2人だけなの?ウッソー』

一番奥まった席に勧められるままに座った。依然として
おばさんが悲しい歌を歌っている。と、突然、
扉が開いてドヤドヤドヤと人々が入ってきた。

何かフランス語みたいだ。これがまたお年寄りばかりで
20人ほど。いっぺんに満席になってオサムはほっとした。
おばさんの歌が止んで、ガイドが何か説明を始めた。

ひとしきり説明が終わると皆で拍手した。オサムたちも
つられて拍手。そしてついに始まった。よく聞く
フラメンコのギターだ。二人掛け合いですごくいい。

がらっと曲が変わってさっき聞いていたあの物悲しい曲だ。
扉がゆっくりと開いてさっきの歌のおばさんが歌いながら
入ってきた。扉を開けておけば谷の向こうにアルハンブラの

宮殿のシルエットが美しく浮かび上がる。すばらしい
シチュエーションだ。

『しかも俺達は特等席だ。マメタンもしっとりと歌声に
聞きほれている。よかったなアルハンブラに来れて』

曲が変わって再び強烈なフラメンコギターの連奏。
早くなったりスローになったり弱くなったり強くなったり。
弱くスローになったところで、扉が開いて、かわいい

2人の子どもフラメンコが登場した。男の子と女の子。
それはそれは可愛いしぐさで一チョ前にカスタネット、
フラメンコを踊る。弱から強へ、パタと止まって

あごをカクンと上に上げる。また徐々に弱から強へ、
すさまじいフラメンコステップでラスト”オレ!”
で極めつきだ。大拍手と笑いとで大いに盛り上がった。
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