デュッセルドルフの針金師たち後編
第20章命の泉

ロンドンに着いた

ドーバーの白い壁とはよく言ったものだ。フェリーですぐに渡れる。
泳いでわたれるくらいだから近いのだ。すぐに水平線上に白い絶壁が
見えてくる。遠く一直線に見えてきたものがじわじわと帯状に、

さらに近づいて屏風上になったかと思うと数十メートル級の大絶壁
が思いっきり視界一杯に広がる。ナチスがフランスに攻め込んできた
時、多くのフランス人が数多くの小船に分乗して、この海峡をあの

白い壁を目指してせっせこせっせこ、漕ぎ出したのだ。その胸の内、
唯一の希望の白い壁だったのだ。まもなくこの下にトンネルが通る。

おっと!上陸と同時に左側通行だ。そこはカルマンギアのオオツキ
さん、心得たものだ。モーターウェイをひたすら北上する。

「制限速度40キロ?こんなハイウェイで?」

「いや、あれはマイルや。40マイル。1.6倍で時速54キロ。
イギリスはずっと伝統とかでマイペースでやってはんのや。欧州
大陸が右側通行でkm/時で統一されてんのに。左側通行でマイルや。
イギリスは取り残されてまうでこのままやと」

オオツキさんのご意見はもっともであった。

とうとう着いたロンドンや!あのビッグベンの時計が見える。
テームズ川。セントピーター寺院。大英博物館。バッキンガム宮殿。
さすが植民地の国。宮殿の衛兵にはアジア系もたくさんいた。

ハイドパークにオックスフォードストリート。ボンドストリート。
リージェントにピカデリーサーカス。ソフォー。カーナビーストリート。

ものすごく多人種の国。パリと同じだ。その中にオーソドックスな
丸帽とタキシードにこうもり傘を持った若いのが歩いていたりする。

パリには屋台のケッテ屋がたくさんいた。合法的で堂々とやっていた。
路上ヒッピーは全くいない。ロンドンにも路上ヒッピーは見かけない。
大通りに車輪つきの屋台で販売をしている。時々ポリス、馬に乗った

あのポリスが来ると。そろそろと屋台を引いて裏道へと逃げる。
ここも追いかけっこだ。馴れ合いで全く緊迫感がない。
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