妖狐の姫君
「ひどい仕打ちをされたようですね。あなたの心の声が聞こえましたよ」
「心の…声?」
「はい。あなたが訴えかけるように強い思いが僕に届いてきました。お見通しですよ」
にこりと笑みを浮かばせている。
「嘘です!」
「では、友達の彼を奪ったあなたがこれからしようとしている、あるいは未来しようとしていることを言ってあげましょう」
その瞳が私を捕えたとき風が強く吹き荒れて松林は騒がしくなり、まるで私の動揺が現れたように。
この男、怖い…。
恐怖が胸を埋めていく。
ただ者と言えない黒い影が私を包むようだ。
顔が青ざめて呼吸が荒くなって一歩後退りする。
「そんな怯えないで。僕はあなたを救いたい」
声が聞こえない。
聞いても擦り抜けていくような感覚。
「一つ節目をつけてもう一度人生やり直しませんか?」
――‐人生をやり直しませんか?
そんな響きのある輝いた言葉が私を救う。
都合のいい言葉が私の心を操るようだった。
「どういうことかわかりません」
「あなたが望むようにここから消えたいのなら今までの自分がしてきたことがもったいない。ならば、」
「…ならば?」
「仮の世であなたが生きる道を選択すればよい。仮の世。あなたはご存知ですか」
私に尋ねられても……。
仮の世とは何か。
私が住む現代に別の次元が存在してるとでもいうのか。