薔薇を食する少女達
過去と未来
  
 『美苑、私達ずっと一緒にいましょうね?卒業して、結婚したら、伴侶のお給料は全部私達がいただくの!綺麗な本や着物を買って、楽しく、毎日一緒に遊びましょう』

 『百瀬の伴侶になる男、可哀相。でも、君がずっと綺麗でいてくれるなら、そいつも喜ぶんじゃないかな』

 『ふふ、貴女の方が、よっぽど綺麗よ。ねぇ、それで私達、新居はお隣同士なの。同級を辞めて、ご近所さんになっても、一番の仲良しでいましょうね』

 美苑には、何年先になるかも分からない、来るかどうかも分からない将来を語った心友がいた。

 彼女の名を、大寺百瀬(おおでらももせ)といった。

 淡い紫がよく似合う、日本髪に映える白い首筋がとてつもなく艶めかしい、同い年の百瀬が、美苑はとても大切だった。

 美苑は、端から男に関心がなかった。いずれ自分が結婚するだなんて考えてもなかったし、同じ人間でありながら、まるで得体の知れない生き物に等しい他人(おとこ)との共同生活は、ともすれば薄気味悪いだけだった。
 美苑が百瀬の語った夢物語に頷いたのは、彼女と一緒にいられる環境から、外れたくなかったからだ。百瀬と生涯を共にするためなら、汚い男との婚姻くらい、安い。

 永遠の命を手に入れるため、百瀬と互いの血を分け合ったのは、さような欲求の延長だった。

 百瀬に美苑の血を飲ませ、美苑が百瀬の血を飲む──。

 禁断の儀式を始めて三ヶ月ほど過ぎた頃、百瀬の身体に変化が起きた。

 『甘い……甘い……力が、漲るわ!』

 先に人としての空腹を失ったのは、百瀬だった。
 彼女を愛する美苑の血液だけで、彼女は生きられる身体になった。

 じきに美苑も同じになった。
 日射や聖なる偶像が忌々しくなるにつれて、体力が養われていった。肌や髪は特別な手入れをしなくても潤いに満ち、月のものが下りなくなった。

 血液の他に口に出来るものがなくなった、美苑と百瀬は、人間を襲うことに躊躇していた。

 家畜の血を主に狙った。しかしながら、吸血種族──ヴァンパイアは、自分を愛してくれる人間の血でなければ、喉を潤せないらしい。
 だから、二人が出逢った港光女学校に密かに棲み着き、夕暮れ、めぼしい少女を誘惑し、夜な夜な若い娘の生き血を啜るという暮らしを始めた。
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