魔王に甘いくちづけを【完】
バルの表情が真剣なものに変わった。

被害を受けた者をこのまま放っておくことは出来ない。


「そうだな・・・。ザキ、何人居るんだ?」

「数えてねぇけど、大勢いるってことだけは確かだぜ」

「よし、とりあえず、確認だ」


どの辺りに・・などと話しながら、バルとザキは部屋を出ていく。

バルはそのまま歩いていき、ザキはドアのところで一旦止まってこちらを振り返り見た。


「ジークはそれが済んでから、だろ?」

「あぁ、後で行く」


ジークはザキの問いかけに短く返事をして、ベッドの傍らに立ちユリアの額に手を当て、うん、まだ冷やしたほうがいいな、と呟いた。

手慣れた様子で冷やし布を額に当て直し、一連の出来事のせいで乱れてしまっていた毛布を整えた。

その様子を見ていたリリィが慌ててベッドに駆け寄る。


「あ・・・ごめんなさい。私がするわ。ジークさんはどうぞ行って下さい。何か、とても大変なんでしょ?・・・何をすればいいの?」


「うーん。大変と言えば、まぁ、そうだな・・・。手伝ってくれるというのなら・・・・そうだ、彼女の体を拭いてやってくれ。こればかりは、男の俺がするわけにはいかんからな。どうしようかと思っていたんだ。布とタライはあそこにある・・・。それから、水はここだ」



ジークは部屋のすみを指差した。そこには水道と小さな洗面台がある。

ドアの傍の壁には水をはったタライがあって、ハンガーに白いタオルがかけてあった。

その設備に思い当たることがあり、リリィは改めて部屋の中をよく見まわしてみた。


壁際に並べられているガラス棚の中には大小様々な瓶がたくさん並べられ、本棚には分厚い書籍が何冊も並べられている。

机の上にある書類のようなものと、無造作に置いてある器具を見て確信したリリィは、ジークの横顔をまじまじと見つめた。


ユリアの状態を確認していたジークは、腕の包帯が取れかけてるのを見てとり、くるくると手慣れた様子で巻きとり始める。

その手をじっと見つめる。



―――ごつごつしててとても大きいのに、器用な手―――



“リリィ。見かけで判断しちゃいけない。本質は奥深くに隠れてるからね”



おじい様の言う通り、人は見掛けによらないってホントだわ・・・。


日に焼けて黒く焼けた肌。

筋骨隆々で、どちらかと言えば肉体労働者的な体格をしているジーク。

リリィの見知ってる限りでは、この職についてる人はこんな逞しくなくて、ほとんどがひょろりとした優男。

手だって、女の人みたいに綺麗な人ばかりだもん。

それにこんな森の奥深くにいるなんて、思わないじゃない。



「あの・・・もしかして、ジークさんはお医者様なの?」



そう問いかけると、腕の包帯を巻き直している手がピタリと止まった。
< 122 / 522 >

この作品をシェア

pagetop