魔王に甘いくちづけを【完】
「―――あぁ、そうだ。・・・ん?・・・ひょっとして、今、気付いたのか?」


今度はリリィの顔がまじまじと見られる。


「・・・・はい」

「こんなに医者然とした部屋なのに、か?」


言いながら手を広げて部屋の中をぐるりと指し示す。



・・・それはそうだけど。

確かに開けた途端薬品の匂いがしたけれど。

しょうがないじゃない、必死だったんだもん・・・。

ベッドで眠るユリアさんしか、目に入らなかったんだもん。



「そんなに笑わなくてもいいじゃない」


頬を膨らませ、小刻みに揺れる広い背中を睨みつける。


「すまんすまん。―――あぁ、そうだ・・・ちょっと待ってろ」


パチンとハサミの音をさせ包帯を巻き終わった後そう言うと、ジークは足早に部屋を出ていった。



ジークの足音が遠ざかり、静かになった部屋。

ユリアの寝息だけが規則正しくリリィの耳に届く。

タライに水をはり、布を浸してユリアの顔をのぞき込んだ。




随分顔色が悪いけど、よく寝てるわ。

ジークさんの治療のおかげかしら。

あちこち拭いてあげたいけど、あまり動かさない方がいいわよね・・・。



手始めに手を拭きながら考え込む。



―――これからどうしよう・・・。

人間のユリアさん。私たちと違って、きっと治るのが遅いはず。

一体どれだけかかるのかしら。

ジークさんの言う通り、確かにここいるのが一番いいような気がする。

お医者様の傍だし。


でも―――――



おじい様、私、どうしたらいい?

ラヴル様はきっと、すごく心配してるわ―――



“ユリアを頼む”


そう言った時の瞳はとても真剣で、しかも何だか辛そうだった。

あんな表情するなんて。

いつも余裕たっぷりの表情で、落ち着いてて、静かな威厳を放ってるラヴル様。

あんな顔、今まで一度だって見たことがない。

ホントは私なんかに頼むんじゃなくて、自分の手で守りたかったはずだわ。



・・・ホントにユリアさんのこと想っているんだ・・・。


思い出すと小さな胸が締め付けられる。



「でも・・・どうしてあの方がユリアさんを攫おうとするの?」


ふと湧いた疑問を口にするとノック音が聞こえ、すーとドアが開いた。



「リリィ、腹減ってるだろう。お前だって何日も眠ってたんだ。生憎今はこれしか用意できないが、ないよりはましだろ。ほら、コレ食べろ」



籠いっぱいに入れられたパンと数本のミルク瓶をリリィに渡すジーク。


「すまないな、あとでちゃんとした食事をさせるから。あぁ・・・言っとくが、慌てるんじゃないぞ。よく噛んで食べろ」


人差し指を立てて真剣な顔で言い、ジークはザキと合流するべく外に出ていった。


「・・・何日も―――って、私、そんなに寝てたの?・・・ていうか、ジークさん、こんなに要らないわ」


渡されたパンとミルクを両手に抱え、呆然とドアを見つめた。
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