魔王に甘いくちづけを【完】
何日も眠っていたことに軽いショックを受け、リリィは、暫く固まったように動けないでいたが、籠の中から漂いくる香ばしい香りに刺激され、お腹の虫が急に強い主張を始め、グゥ~と鳴り始めた。
―――う・・・。何日も眠ってたんじゃしょうがないわよね・・・。
ユリアさん、ごめんね。体を拭くのは後にするわ。
だって、このままじゃユリアさんを食べちゃうかもしれないもの。
恐ろしいことを考えつつ、捲っていた毛布を丁寧に掛け「いただきます」と呟いてパンを一口かじった。
あまりの美味しさに、ジークの注意も忘れ夢中で頬張った。
案の定胸につかえ、必死の思いでミルクで飲み下し、ホッと安堵の息を吐き、再び口いっぱいにパンを押し込んだ。
これから頑張らなくちゃいけないもの。体力、つけなくちゃ。
リリィは不安も一緒に噛み砕くように、パンを食べ続けた。
こんな風にリリィがお腹の虫を宥めている頃。
場所は変わり、同じ時間のロゥヴェルの都ケルン。
ふもとに佇む荘厳な城の中の奥深の、王宮殿。
廊下を一人の白髪の男性が、辺りを窺いつつコソコソと歩いていた。
ある一室の前で立ち止まり、ノックをせずに小さな声をかけた。
細く開けられたドア。
その中に滑り込むようにして入った。
静かに迎え入れたその部屋の主は、無言のままナイトガウンを脱ぎ上半身裸になった。
「では、失礼致します」
「・・・うむ」
軽く頭を下げ男性が逞しい胸に手を当てた。
暫く瞑目したあと手を離し神妙な顔つきで唇を引き結ぶ。
「どうだ・・・聞くまでもないが、以前より進んでいるだろう。自分の体だ。私が一番よく分かっている。――――で、あとどのくらい持つ」
「はい――――セラヴィ様、あの、その前に一つお伺いしても宜しいでしょうか」
「うむ、何だ」
「その・・・近々と申しますか―――この先ですが、妃を迎えるご予定は御座いますか?」
「ない」
「・・・そうで御座いますか・・・その―――」
平然と即答するセラヴィに対し、御殿医の表情が曇っていく。
「御殿医、分かっている。早く正直に言え」
「はい。心の臓がかなり弱くなっております。このままですと崩壊まであと1年・・・それ以上は持ちますまい」
「1年―――なんと・・・御殿医殿、本当ですか!?」
後ろに控えていた初老の男が一歩前に進み出て御殿医の顔を見た。
この場にいる誰よりも、この男、大臣は驚いていた。
「もともと、セラヴィ様は心の臓が弱くていらっしゃいますので・・・残念ですが」
静かに首を横に振る御殿医を見て、大臣の青ざめていた顔がさらに白くなり、ふらりとよろめきテーブルの上に手をついて項垂れた。
その頭ががばっと上を向き、充血した瞳がセラヴィの顔を見つめながら近付いていく。
ナイトガウンを羽織るセラヴィに向かい、真剣な面持ちで懇願するように瞳を向けた。
―――逞しい体つき、波打つ黒髪に輝く漆黒の瞳。
男でも見惚れるほどの美丈夫さ。
見た目にはどこも悪くなさそうなのに。
これで、あと1年と言うのか――――
「―――っ、どうかお願いで御座います。意地を張らずに、どなたでも宜しいではないですか。お早くお決め下さい。愛情ならば、共に暮らせば後から湧いてくるもので御座いますれば―――」
―――う・・・。何日も眠ってたんじゃしょうがないわよね・・・。
ユリアさん、ごめんね。体を拭くのは後にするわ。
だって、このままじゃユリアさんを食べちゃうかもしれないもの。
恐ろしいことを考えつつ、捲っていた毛布を丁寧に掛け「いただきます」と呟いてパンを一口かじった。
あまりの美味しさに、ジークの注意も忘れ夢中で頬張った。
案の定胸につかえ、必死の思いでミルクで飲み下し、ホッと安堵の息を吐き、再び口いっぱいにパンを押し込んだ。
これから頑張らなくちゃいけないもの。体力、つけなくちゃ。
リリィは不安も一緒に噛み砕くように、パンを食べ続けた。
こんな風にリリィがお腹の虫を宥めている頃。
場所は変わり、同じ時間のロゥヴェルの都ケルン。
ふもとに佇む荘厳な城の中の奥深の、王宮殿。
廊下を一人の白髪の男性が、辺りを窺いつつコソコソと歩いていた。
ある一室の前で立ち止まり、ノックをせずに小さな声をかけた。
細く開けられたドア。
その中に滑り込むようにして入った。
静かに迎え入れたその部屋の主は、無言のままナイトガウンを脱ぎ上半身裸になった。
「では、失礼致します」
「・・・うむ」
軽く頭を下げ男性が逞しい胸に手を当てた。
暫く瞑目したあと手を離し神妙な顔つきで唇を引き結ぶ。
「どうだ・・・聞くまでもないが、以前より進んでいるだろう。自分の体だ。私が一番よく分かっている。――――で、あとどのくらい持つ」
「はい――――セラヴィ様、あの、その前に一つお伺いしても宜しいでしょうか」
「うむ、何だ」
「その・・・近々と申しますか―――この先ですが、妃を迎えるご予定は御座いますか?」
「ない」
「・・・そうで御座いますか・・・その―――」
平然と即答するセラヴィに対し、御殿医の表情が曇っていく。
「御殿医、分かっている。早く正直に言え」
「はい。心の臓がかなり弱くなっております。このままですと崩壊まであと1年・・・それ以上は持ちますまい」
「1年―――なんと・・・御殿医殿、本当ですか!?」
後ろに控えていた初老の男が一歩前に進み出て御殿医の顔を見た。
この場にいる誰よりも、この男、大臣は驚いていた。
「もともと、セラヴィ様は心の臓が弱くていらっしゃいますので・・・残念ですが」
静かに首を横に振る御殿医を見て、大臣の青ざめていた顔がさらに白くなり、ふらりとよろめきテーブルの上に手をついて項垂れた。
その頭ががばっと上を向き、充血した瞳がセラヴィの顔を見つめながら近付いていく。
ナイトガウンを羽織るセラヴィに向かい、真剣な面持ちで懇願するように瞳を向けた。
―――逞しい体つき、波打つ黒髪に輝く漆黒の瞳。
男でも見惚れるほどの美丈夫さ。
見た目にはどこも悪くなさそうなのに。
これで、あと1年と言うのか――――
「―――っ、どうかお願いで御座います。意地を張らずに、どなたでも宜しいではないですか。お早くお決め下さい。愛情ならば、共に暮らせば後から湧いてくるもので御座いますれば―――」