魔王に甘いくちづけを【完】
「・・・変なことって、例えばどんな?」

「いや、子供の頃のことであるとか、その・・・いろいろだ」


少し恥ずかしそうな声色を出すバル。

ユリアはますます不思議に思った。何かおかしい。



「そんなことは話してないけれど。でも、バル。どうして貴方がそんなことを知りたいの?」


だって、王子様のことよ?と言いながら首を傾げ見上げると、知りたいも何も・・・と呟いたあと、急にぴたと止まって正面にまわってきた。

その表情はとても訝しげだ。



「・・・・ん?ちょっと待て、何かおかしいな」

と言った後、遠くを見るような瞳で暫く無言のままでいるのは、頭の中で順序立てて何かを整理しているように見える。

やがてユリアを真っ直ぐ見つめて、ふ・・と微笑んだ。



「・・・・お前、俺を何だと思っている?」

「えっと、何って―――バルは、この国の偉いお方って聞いているわ。だから身分も高いのでしょう?」



そう言うと暫く固まった後、バルはユリアの後方にいる侍女に向かって、お前は下がっていろ、と命じた。

侍女が膝を折って下がっていくのを見届けると、再びユリアを見つめた。



「あぁ、確かに身分は高いぞ。なんと言っても、世継ぎの君の妃候補を決められるくらいだからな―――で、具体的には何だと思っている?」


首を傾げて見上げていると、悪戯っこく瞳を輝かせ、ん?答えてみろ、と言って楽しげに微笑んだ。

すっと背筋を伸ばし上質の服を着たバルの姿は、見れば見るほど堂々としていて立派に見える。

ジークの家で見ていたユリアの知っているバルとは随分違っていた。


「っと・・・そうね・・・何かしら・・・お傍付の重臣、でしょ?」

「ふむ、そうきたか・・・。お前に言わなかった俺が悪いんだな。知ってると思い込んでいた。すまんな」



そう言うとバルは、我慢できないのかお腹を押さえて、くっくっくと喉の奥で可笑しそうに笑っている。



――何でバルはこんなに楽しそうなの?

もしかして、何かとんでもなく間違ったことを言ったのかも――


あまりに笑っているので自らが言った言葉全部を、半ばムッとしながら頭の中で反芻しつつ見つめていると、笑ってすまんな、とやっとこ笑いを止めて、少し怒ってる様子のユリアを宥めるように手をそっと握ってきた。


「今、分かった。お前は割と鈍感なんだな。・・・いいか、良く聞けよ?」


いや、そんなに見つめられると何だか緊張するな、と言葉を継ぎ、バルは緊張をほぐすように息を吸い込んだ。


「・・・俺が、この国の王子だ」

「うそ・・・だって―――」


ユリアの頭の中でいろんなシーンが蘇る。

ジークの家でのことも。オークション会場でのことも。

さっきの王妃の話をよく噛み砕いてみれば、バルが王子様って答えは至極当然のことに思えて・・・。


「俺は、お前の記憶が戻ればそれでいい。俺を信じてくれるか」


笑顔から一転して真摯な表情になったバルを、呆然と見つめながらもいつの間にか唇は勝手に動き、はい、と返事をしていた。
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