魔王に甘いくちづけを【完】
「ごめんなさい。今はとても食べられないわ」

「そうですか。無理もありませんわね・・・」



食事を指し示していた室長の手が力なく下ろされた。

この食事はさっき、剣を腰に携えた立派な体格の男の方が運んできてくれた物。







―――・・・オソロシイ・・・―――


一目見た時、そう思った。

その山のようにデカイ体と、扇子のような大きな手で運ばれてくるいつものワゴンは、小さな子が使う玩具のように見えた。

腰にさしてある剣は体格に合わせて作られたのか、とても長くて大きい。

起きたことが事だけに城宮全体が警戒してるのだろうけど、とても物々しく感じられた。

さっきのことを、ありありと思い出してしまう。


余りにも厳つい体つきでジロリと睨む怖い瞳が無言のままワゴンを置く。

何か言えばいいのに、じっと立ったまま怖い顔で見下ろしている。



―――凄い威圧感・・・。


「・・・あの方は?」

堪らずに室長に体を寄せつつ小声で聞いたら

「あの方は、王子様配下の近衛騎士団員の方です。王子様がお留守の間は彼がドアの向こうに常駐するようですわ。今後部屋に運ばれる物は、全て彼がお持ちするでしょう」

と苦笑しながら教えてくれた。


二人でこそこそと話していると、咳払いを一つした上に再びこちらをひと睨みして無言で出ていった。



「ご覧の通り、彼ならば暴漢も誰も無断では通れませんもの、最適な人選ですわ」


さすが王子様ですわね、と付け加えて、室長は置かれたままのワゴンの上にある丸い蓋をどけた。

ふんわりといい香りが漂ってくる。



「あぁ、きっとそろそろですわね」


呟きつつ、テーブルに皿を移しながら、しきりに窓の外を気にしていた室長の手が止まった。


「あ、ユリア様。今、王子様の一行がお出になりますわ―――・・・・」











―――――・・・


あの体の大きさ・・・。

体を縮めるようにしてドアを潜ってワゴンを押してきた姿。

確かに、あの方がそこに立つだけでドアがぴったりと塞がれてしまいそう。

部屋に入ろうと思ったら、許可をもらって退いてもらうか倒すしかない。

ううん、きっと倒してもドアは塞がれちゃうわ。



今日は、いつものあのヒトは来なかった。

ということは、やっぱり、あの爪の犠牲になったのかもしれない。


くしゃぁと笑う顔が、ぐにゃぐにゃに歪む。


無事だと、いいけれど―――
< 231 / 522 >

この作品をシェア

pagetop