魔王に甘いくちづけを【完】
「ユリアさんっ、大丈夫!?平気?」


ノックの音もさせずに開けられたドア。

細く開いた隙間から捻じり込むようにして入ってきたリリィが、こちらに駆けて来る。

赤毛を揺らして腕の中に飛び込んできて、ギュゥッと細い腕がからめられた。



「もぉ・・よかったぁ・・・」



顔が埋められた肩から小さなため息と呟きが聞こえる。

その背中に腕をまわしてギュッと抱き締め返した。



―――良かった・・・ホントに良かった。

リリィも、どこも怪我してなくて、元気そうで―――



「リリィ、無事で良かった。あの―――――他の子たちは?」



恐る恐る問いかけると、ぐいっと体を離してにこっと笑った。



「うん、見習い侍女の子も、この部屋の係りの侍女も、みんな無事だよ。私、さっきまでジークさんのお手伝いしてたの。怪我して運び込まれてたのは全部男の人だった。衛兵の人も使用人の人も怪我はしてるけど、すぐに治るって、ジークさん言ってたよ―――それから、あの朝のワゴンのヒトも来てた。腕を怪我してたけど、元気そうだったよ」


「そう、良かった」



ホッと安堵の息が漏れる。

室長がそっと動き、音もなくドアを開けるのが見える。

ドアのすぐ向こうに、ドン、と立ちはだかるようにして大きな背中がある。

まるで壁みたいなそれを、室長の小さな手が懸命に押していた。



「ユリアさん、今ここ、すごい厳重な警備になってるよ。ここまで来るのに何回も止められちゃった。“待て。お前は何者で、ここに何用だ。答えなくば排除する”って・・・。腰の剣に手をやって、こ~んな怖い顔して聞くの」



指で眉と目を吊り上げて鼻に皺を寄せて、怖い顔を真似して見せるリリィ。

可愛らしい顔だから、いくら真似てもちっとも怖く見えない。

けど・・・。



「まぁ、そんなに怖い顔なの?」

「そうだよぉ、私みたいな見習い侍女にも、だよ?止められるたびに同じこと聞かれて、そのたびに同じこと説明してたら、もう疲れちゃった。でもこれなら、どんな怖ろしい人が来ても心配ないね。――――それにね、一番オソロシイのは、そこに立ってる人だもん」



後半の言葉は声を潜めて言うと、リリィはドアの方を指し示した。

その表情は口を尖らせていて、ぷりぷりと怒ってるように見える。

あの無言のオソロシイ方と、一体どんな会話を交わして部屋に入ったのかしら。


厳つい体に対峙する、小さくて可愛いリリィ。

いろいろ想像していると、ぷんすかしていたリリィの顔がふにゃぁと崩れた。



「あぁ、もうダメだぁ。ユリアさんの無事な姿見たら、安心してお腹が空いてきちゃったぁ・・・だって、これ、すごくいい匂いなんだもの・・・」



ペロと舌を出して恥ずかしげに笑う。

ずっと黙りこんでいたお腹の虫がやっとこ主張を始めたようで、ぐぅ~と鳴ってるのがここまで聞こえてくる。

そのリリィらしさが可愛くて心が和んで自然と笑みが零れる。

細い背中を押して、テーブルの椅子に誘導して座らせた。



「これは、リリィに食べてもらった方がいいみたいね?」



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