魔王に甘いくちづけを【完】
「―――ありがとうございます。王妃様、いただきます」


置いたままにしてあった皿を手に取った。

サイコロの形をしたお菓子をじっくり眺める。


これが『カフカ』という国のもの。

同じ種族の方、人間のコックさんが作ったもの。



よく見ると三層全部、素材が違うもので作られている。

薄い焼き菓子の土台の上に茶色、真ん中に白、一番上に桃色と重なって、表面はゼリー状の透明な膜で覆われて金箔のような粉と小さな香草が乗せられていて、とても凝った作り。

小さいのに、何だかとても豪華なお菓子。



王妃が持ち込んだ金のフォークをさし入れると、下の焼き菓子が、サク、と小さな音を立ててほころんだ。

口に含むと、ほんのり酸っぱくて甘くてほろ苦くて。

三層の味が絶妙に混ぜ合わさってとても美味しい。

頬がとろけ落ちるような感覚に酔いしれていると、ある感情が胸に迫ってきた。



―――久しぶり―――


湧きあがる郷愁にも似た思い。



“懐かしい”



王妃の言葉通りに感じてる私がいる。


以前に、これを食べたことがある。

そんな風に感じる。


いったい何処で?・・・まさか、本当に?




信じられない思いで、皿の上のお菓子をじっと見つめる。

見ればみるほど豪華なものに思える・・・。

これを知ってるというの?

ということは・・・もしかして・・・。




『カフカ』それが、私の、国



・・・でももしかしたら、これじゃなくて、似た味のお菓子を舌が覚えてるだけかもしれない。


そう考えている間も、懐かしいと思う気持ちは薄れなくて自然に瞳が潤んでくる。

とにかく、この感情が本物なのか一過性のものなのか、もう一度食べて確認してみないと・・・。


ドキドキしながら、二口目を含んだ瞬間だった――――




・・・ふわり・・・



一陣の風が吹いた気がした。



部屋の窓は締められていて、外から吹き込んでくるわけではない。

なのに、草原の中にいるような、そんな感覚に襲われている。




身ぶり手ぶりを交えてお話しているにこやかな王妃の顔が、どんどん霞んでいく。
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