魔王に甘いくちづけを【完】
「“母上、もしや、私の留守の間に、いじめてなどおられませんでしょうな?”」
唇をすぼませ精一杯低い声を出して、バルの声真似をする王妃。
おどけて笑わそうとしてるのが伝わってくる。
いつもの柔らかな鈴の音のような声が、しゃがれて聞こえて。
顔真似までしてくれて。
あまり似てないけど、却ってそれが可笑しくて堪らない。
耐えきれずに噴き出してしまい声を殺してくすくすと笑ってると、怒った顔が見る間にほころんだ。
「まぁ―――成功しましたわね、嬉しいわ。
やっと笑いましたわね、良かったこと・・・。
・・・ね、ユリアさん?
どうかしら、あの子の真似、似てましたでしょう?」
「―――えぇとても。王妃様、流石お母様です。よく特徴を掴んでらして、お上手でしたわ」
身を乗り出して聞いてくる、年齢を感じさせない無邪気な笑顔に受け合って、笑顔を崩さずに返すと「そうでしょうとも」と鼻高々にして顔を上げ得意げに胸を張った。
結構皆さんに評判いいんですの、と貴族方の夜会でも披露して、奥方様にウケたというお話をし始めた。
「・・・ね、可笑しいでしょう?
あら、いけませんわ、つい夢中になってしまいまして。
―――さぁ、貴女も少しは気分も変わったでしょう。
それを食しなさいませ・・・ほら、紅茶も・・・。
まぁ、少しばかり冷めてしまいましたけれど。
ちょうどいい具合に飲みごろになっておりますわ」
すらりとした指が優雅にカップを持ちあげ、ね?と言ってにこりと笑いかけてくる。
―――少し、天然なところがおありになるけど、王妃様はとても優しい。
こうして気に掛けてもらえるのはとても嬉しくて、おそれ多いことで。
もしも今独りきりでいたのなら、マリーヌ講師の宿題をしていていた。
それはいいのだけど、こんな日だもの、いろいろ考えてしまって集中出来ないに違いない。
“ユリア様、集中が足りません。それではやっても無駄ですわ”
ツンとして眼鏡を上げる仕草が容易に思い浮かぶ―――
こうして楽しくお話して下さって、気を紛らわせて下さる王妃様。
これは無理してでも食べないといけないわ。
せっかくのお気持ちを無駄にしてしまうもの。
それに、今なら食べられそうな気がする。