魔王に甘いくちづけを【完】
それがどうしてなのか分からない。

けど、このまま連れていかれるわけにはいかないわ。

記憶をたどる糸口がここにあるのに。

たくさんの恩を受けたバルやジーク、それに王妃さま。

何よりリリィを置いていけないわ。

このまま行ってしまったら、私はとんでもない恩知らずだわ―――


「嫌!離して!」


大きな声を出して、手脚を思い切りバタつかせてみる。

これで少しは怯むはず。

でもその考えは甘く、ケルヴェスの腕は緩むどころか却って強く締めてきた。



「大人しくして下さい。貴女に術は使いたくない」


・・・術?って、きっと、あのマリーヌ講師にしたようなものね。

あれは、瞳さえ見なければかからないような気がする。


「離して。離しなさい!」



「ぴぃぃっ」



バサバサと羽音が聞こえるのと同時に、ケルヴェスの顔面に白いものが突進してきた。

足の爪がケルヴェスの頬を引っ掻き、嘴が何度も頭をつつく。


これは、白フクロウさん・・・助けてくれてるの?


「ぐぅ・・・ぅ・・貴様はっ」


呻き声を上げたケルヴェスの腕が一瞬緩んだ。

瞳を閉じてる今しか、逃げる時はない。


頑張って体を捩っていると、顔面を攻撃していた白フクロウさんの体が、むくむくどんどん大きくなっていくのが見えた。


呆然としてると、足で、わしっと肩のあたりを捕まえられた。

爪が食い込んで、とても痛い。



「イタタ、痛いわ・・・白フクロウさん、お願い、離して」


抗議も虚しく、大きくなった翼はばさばさと羽ばたき、ぐんぐん上昇していく。

ゆらゆら揺れる足。

下を見れば、どんどん地面が遠くなっていく。

ケルヴェスは、顔を抑えて悔しげにこちらを見ていた。



―――怖い。

何処にいくのかしら。

意思はあるの?

目的もなく飛んでるだけのような気もする。


暴れようにも、落ちてしまったら怪我どころでは済まないし、何より肩が痛い。

少しでも痛みを和らげるには、大人しくしてないと。


翼が上下するたびにぐん、と移動が早まり、どんどんお城が遠くなっていく。



「どこに、行くの?どこかで、下ろしてくれるのよね?」


言葉は通じないだろうけど、少しでも恐怖心をおさめたくて話しかける。

出来れば分かりやすいところに下ろして欲しい。

城に帰るのに、歩きやすいところがいいわ。

でも、どうしてこんな目に合うのかしら・・・。

自分のおかしな運命を呪いたくなる。



ふ、と突然肩の圧迫感が無くなった。

と、同時に、自由になった体がどんどん下に下降していく。


それは速さを増していて、つまり、これは落ちてるのよね!?

白フクロウさん、こんなところで離すなんて、酷いわ!



「きゃぁぁぁっ」




「ユリア、そう騒ぐな」

「――――え?」



今、何て――――?



ふわり・・・落ちる感覚が止まって、満天の星と満月が瞳に映った。

それが、ゆっくりと遠くなっていく。


そして、すとん・・・と、ある場所に落ち着いた。




「・・・ふむ、重くなった」
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