魔王に甘いくちづけを【完】
少しでも近くで聴こうと、嬉しげにいそいそと動いて行くご婦人方。
楽士たちの奏でる音も止み、しんと静まり返った中朗々と美しい旋律が響き始める。
耳に心地よく届くテノールの伸びやかな歌声。
そのメロディは、どこか懐かしく思えて胸の奥が揺さぶられる。
切ない感情が身の内に溢れてきて、知らずに涙まで零れて頬を伝い落ちた。
これは・・・どこかで、聴いたことがある。
・・・前に・・・いつ―――?
目の前の光景がぐらぐらと揺らいでいく。
音が遠くなり、意識は過去へと誘われる―――――
―――冷たい石造りの壁。
窓から差し込む明るい光。
広間の真ん中に敷き詰められた赤い絨毯。
周りを囲むのは・・・にこやかに笑う人たち。
楽器を持った数人の旅姿の人が恭しく跪いて、その中の年配の人が顔を上げた。
皺の刻まれた顔がくしゃりと笑う。
「この良き日。カフカの麗しき姫君に、歌を献上出来ますことを喜ばしく思います」
互いに目で合図し合い、たおやかに美しい旋律が奏でられる。
真ん中にいる細身の女性が、綺麗なソプラノで歌い始めた。
皆の表情が一気に穏やかになり、瞳を閉じて聴き惚れている。
甘美な歌声で至福の時が流れる。
これは、私に向けられたものなの?
何か違和感があるような気がする・・・。
それは・・何なのかしら――――
「どうした、大丈夫か?」
もっと深く入り込もうとした瞬間、体を揺さぶられて声を掛けられ現実に引き戻された。
ソプラノの歌声が掻き消え、テノールの歌声が急に大きく耳に届いて、クラクラする。
ふらついて倒れそうなところを逞しい腕に支えられた。
「あ・・・バル。私・・・」
「具合が悪いのか?・・・少し、風に当たりに行こう」
有無も聞かれずに、体を支えられてテラスへと促される。
開けられていた観音開きの窓が閉められると、紳士の歌声が小さくなり二人の間に静かな時が訪れた。
楽士たちの奏でる音も止み、しんと静まり返った中朗々と美しい旋律が響き始める。
耳に心地よく届くテノールの伸びやかな歌声。
そのメロディは、どこか懐かしく思えて胸の奥が揺さぶられる。
切ない感情が身の内に溢れてきて、知らずに涙まで零れて頬を伝い落ちた。
これは・・・どこかで、聴いたことがある。
・・・前に・・・いつ―――?
目の前の光景がぐらぐらと揺らいでいく。
音が遠くなり、意識は過去へと誘われる―――――
―――冷たい石造りの壁。
窓から差し込む明るい光。
広間の真ん中に敷き詰められた赤い絨毯。
周りを囲むのは・・・にこやかに笑う人たち。
楽器を持った数人の旅姿の人が恭しく跪いて、その中の年配の人が顔を上げた。
皺の刻まれた顔がくしゃりと笑う。
「この良き日。カフカの麗しき姫君に、歌を献上出来ますことを喜ばしく思います」
互いに目で合図し合い、たおやかに美しい旋律が奏でられる。
真ん中にいる細身の女性が、綺麗なソプラノで歌い始めた。
皆の表情が一気に穏やかになり、瞳を閉じて聴き惚れている。
甘美な歌声で至福の時が流れる。
これは、私に向けられたものなの?
何か違和感があるような気がする・・・。
それは・・何なのかしら――――
「どうした、大丈夫か?」
もっと深く入り込もうとした瞬間、体を揺さぶられて声を掛けられ現実に引き戻された。
ソプラノの歌声が掻き消え、テノールの歌声が急に大きく耳に届いて、クラクラする。
ふらついて倒れそうなところを逞しい腕に支えられた。
「あ・・・バル。私・・・」
「具合が悪いのか?・・・少し、風に当たりに行こう」
有無も聞かれずに、体を支えられてテラスへと促される。
開けられていた観音開きの窓が閉められると、紳士の歌声が小さくなり二人の間に静かな時が訪れた。