魔王に甘いくちづけを【完】
広いお部屋。

おばば様の家のどのお部屋よりも大きい。

隅から隅まで力いっぱい走っても、時間がかかりそうなほどに。

王様と金髪の人を交互に見ると、二人ともにこにこ笑って頷いている。



―――ほんとなんだ。

ここが、わたしのものなんだ。

うそじゃないんだ。

ほんとに、ここにいていいんだ―――



「・・・うん。ありがとう!おうさま。わたし、うれしい」

「こら、何度言えば分かる。父と呼べと言っただろう。いいか、王様ではなく、 お と う さ ま 、だ」



幼いながらに感じ取る、王が自然に醸し出す威圧感。

怖い声で窘めるように言われて、大きく息を吸い込んだ。



「ぁ・・・ごめんなさい・・ぉ、おとうさま」


言いなれない言葉。

怖くて恥ずかしくて舌がもつれそうになるけど懸命に声に出した。



―――おこらないで。

・・・おねがい、きらわないで。

みすてないで・・・。

もっとじょうずにいえるようになるから。

いい子にしてるから。

おねがい、ここにおいて―――



お髭が涙に霞む。

唇をぎゅっと引き結んで、涙を零さないように一生懸命こらえた。




“同情引こうってのかい?泣けばいいってもんじゃないよ。娘は忙しんだ、お前とは遊べないんだよ。ほら家に帰りな”



冷たく言い放たれてドアがバタンと閉められた。

あの時のおばさんはとても怖い顔をしていた。




―――あのときといっしょ。

ないたらもっときらわれる。

がまんしないと―――
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