魔王に甘いくちづけを【完】
ザキとリリィをはじめとし、ご婦人から紳士まで数人の方々が硝子にぴったりと貼り付いて此方をジーっと見ていた。

口は開くけれど、あまりの驚きで声も出せない。



皆一様に、にこにこ満面の笑顔。

リリィなんて、両手で頬を押さえてる。

確認しなくても分かる、きっと頬は真っ赤だわ。

隣にいるザキは、いつもの不機嫌さが影を潜めてにやりといった感じで唇を歪めていた。

目が合うと、更に口角が上がってゆっくりと首を縦に動かした。

その感じは、年下なのに、まるで人生の先輩のよう。


初めて見るけれど、あれが彼の笑顔なのよね。


というか、リリィ。

貴女いつから見ていたの?

その反応だもの、当然、抱き締められていたところ、しっかり見てたわね??



羞恥心が沸き上がってくる。


―――一体、どこからどこまで見られていたの?

こんな大勢の方にだなんて―――


一人でドキドキしてパニックに陥っている傍らで、バルは参ったなと言いつつも嬉しそうに笑ってる。

ぴぴぴと指先を動かして合図する、にこにこ笑顔のご婦人に対して手を上げて返したりしてる。


じろりと睨む。


どうしてそんなに楽しそうなの?



「バル――――!?」


「あー、すまん。許してくれ。―――皆があんな風に見ていたとは知らなかったんだ。本当だぞ?」



――――私はこんなに恥ずかしいのに。

ここに穴があったら入り込みたい。


お客様皆が帰るまで、できれば朝まで。

というか、皆の記憶から消え去るまで、隠れていたいほどなのに―――――


このまま会場に戻るなんてとても出来ない。


なのに、バルったら。



「さて、妃候補殿。覚悟は宜しいか?―――そろそろ会場に戻らんといかんぞ」


と、腕を差し出しながら、にっこり笑って呑気にのたまった。



その後、嫌がって必死に抵抗したけれど、半ば引きずられるようにして会場に戻され、ご婦人方の意味ありげな笑顔と視線、それに加えてバルに対して投げかけられる紳士方の「よくやった」的な声援に耐えつつも残りの時間を過ごした。



そして、バルを恨みつつ、部屋に戻れば。



「ユリアさん、バルさんから何言われたの?」

「ね、告白されたんでしょう?何て―――?」

「男らしいよね!素敵だよね!ね、どうするの!?」



などなど、興奮したリリィの質問攻撃に、暫くの間悩まされた。


ほんとに、人ごとだと思って・・・リリィったら・・・。



その夜は、なかなか寝付けないままに、時が過ぎていった。
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