魔王に甘いくちづけを【完】
「かえっちゃうの?もう、わたしとあそんでくれないの?」
―――もう、あえないの?
また、ひとりぼっちになっちゃう。
おねがい、いかないで―――
男の子の顔がどんどん滲んでいく。
けど、唇を噛みしめて必死に涙を零さないようにしてた。
だって、泣いたら二度と会ってくれない。
「折角、さっきまで笑っていたのにな。貴様のせいだぞ」
「っ、それは―――申し訳御座いません。ですが」
「ちっ―――わかってる。それ以上言うな。・・・ん、あなたももう泣くんじゃない」
「なっ・・・ないてない。ないてないもん!・・これは・・・ちがうもん!」
目の水分を一生懸命拭って必死に笑顔を作る。
けど、涙はどんどん出てくる。
「・・・せっかく可愛いのにな。涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。この髪も、整えたら綺麗なんだろうに・・・・」
男の子が頭をそっと撫でてくれる。
優しい手。
「もう少し待ってろ。今はまだ子供だから、連れていけないんだ。大きくなったらまた会おう。・・・必ず、またここで。いいね?」
「ほんと?また、あそんでくれる?」
「本当だよ―――だから、あなたの名を教えて」
「っ、それはいけません!」
「黙れ!執事風情が指図することじゃない!いいから、貴様は何も案ずるな」
「も、申し訳御座いません・・ですが」
男の子の体は小さいのに、大人の人よりも大きく見えるのは何故だろう。
男の子はこの人よりも偉いのかもしれない。
まだ続いてる二人のやり取りを見つめながら考える。
・・・おばばさま。
なまえ、おしえてもいいのかな・・・
“いいかい。お前の本当の名は、簡単に人に教えたらいけないよ。大事な人にだけ。おばばとの、約束だ”
毎日のようにそう言いきかされた。
正直、おばば様の言ってることはよく分からない。
だけど、教えたらダメだっていうのは分かってる。
おばば様は私の名を聞かれるたびに、その場で考えついた別の名前を告げていた。
だから、皆私の本当の名を知らない。
どうしてなのか疑問に思うたび聞くと、難しくて全然分からない事を話してくれる。
首をひねってると“大きくなれば理解できるようになるさ”とニッコリ笑った。
「あの・・なまえ、おしえないとだめなの?」
「教えてくれないと、あなたを探せないだろう?それとも、もう会いたくないか?」
真剣に私を見てくれる夜色の瞳。
他の人と違う力を持つ、優しい男の子。
「そんなことない。またあいたい。またいっしょにあそびたいもん」
綺麗な手が頭を再び撫でてくれる。
「なら、教えてくれるだろ?きっと迎えにくるから」
「えっと。あのね、ほんとは、ないしょなんだよ―――・・・」