魔王に甘いくちづけを【完】
「今は・・・眠ってるのか」


バルは布の上で横たわる姿を一瞥し、ユリアの方を振り返り見た。

お茶を飲み此方をチラチラと見る様子は、やはり気にかかるのだろう。

顔色は青ざめ、今にも倒れそうなほどに見える。

抱き締めて頬を包み込み、体中をほぐして何もかもを忘れさせ安心させてやりたいが・・・まだ、俺では駄目なんだろうな・・・。


今からするジークとの会話は聞かせたくないものだ。

なるべく声を潜めねばならん。



「・・・不本意ながらも預かり者の一つだからな・・・結構な重体に見えるが、彼に連絡した方がいいか?」

「それには及ばないかと。怪我自体は大したことありませんし、これは疲労困憊回復のため、本能で眠ってるだけですからすぐに目覚めます。バル様の懸念されてるようなことは、まずありません」


よく見れば、羽は抜け落ちてボロボロではあるが、満身創痍とまではいかないか。

疲労困憊、か。

先の時代、目にも止まらぬ攻撃と緻密な戦略は同じ鳥類系においては右に出る者なしと謂われ、白き閃光と異名をとったと聞いてるが、やはり年には勝てんらしいな・・・。

だが、彼ほどの魔物ならば魔力も体力もすぐに回復するのだろう。



「そうか・・・さすがは、彼の臣下と言うべきだな」

「バル様、それよりも、俺は怪我の原因となった出来事のほうが気になります。彼女を守ろうとしたに違いありません」

「うむ・・・闘った相手か。彼ほどの者をここまでにするとは、相当の手練れなんだろう。目覚めたら話を聞きたい。彼女の周りで起きた事件と関係あるかもしれん」



―――城宮の中を血だまりにしたあの男。

予想通り、奴は術に掛けられていた。

ルガルドの報告を聞き納得できず俺も尋問すれば、何度も同じことを言った。


“あの日のことは何も覚えていないのです”と。


どこで誰に掛けられたのかさっぱり覚えてないと言う。

事件の最中も夢の中を漂うように感じていたらしい。

気付けば俺にやられた傷の痛みと血だらけの服に驚愕して動転し、尋問されて夢ではなかった現実だったと実感するにつけ、あまりの申し訳なさに死さえ考えたそう。

今会えば、表情も口調も事件の最中とは全く違い、穏やかな気のい男に見えた。

言うなれば、奴も被害者の一人なのだ。


それにもう一つ、マリーヌ講師の課題の件。

あれはアリの素早い判断によりインクに問題があったことが既に判明している。

ただ、それが何の効果を呼び、いつ誰にすり替えられたのか分かっていない。

セラヴィ王の関係者の仕業なのか、それとも全く違うのか。

二つの件は繋がってるのか―――
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