魔王に甘いくちづけを【完】
今にもドアを開けて入ってきそうな勢い。


「何でもありません。大丈夫です」


慌ててそう返しながら、物を投げなくて良かったと心底思う。

うっかり派手な音でも立ててしまえば、有無もなく部屋に入って来たに違いない。

こんな恰好を見られたら、今以上に憤懣が溜まってしまう。


不幸中の幸いか、ドアの向こうは見られなかったけれど、見張りが常駐してるらしいことだけは分かった。

しかも、二人も。

こんなところに二人も付いていれば、外にはもっと沢山の衛兵がいそうな気がする。

余程の運がなければとても逃げ出せそうにない。

この部屋も大きいもの、結構大きなお城のよう。


ここはなんて名前の国なのかしら。


毛布がずれないようしっかりと持って立ち上がる。

窓の外を見れば、見渡す限りこんもりと繁る緑の葉の群れ。

どうやら山の中腹に建っているようで、頂上が目線の上にあった。

地面は遥か下のほう。

階数はバルの城宮と同じくらいの高さに思える。

これだと、窓を破って逃げることも出来ないわね・・・。



第一の策は泡と消えそう。

となれば、もう一つの策を・・・目を閉じて、きゅっと唇を結ぶ。


―――いつか、決心しなければ――――




だけど、髪飾りもドレスも、おまけに下着も。

一体どこにあるの・・・とてもこのままではいられないわ。


ジークの家で目覚めたときでさえ、衣服は身に着けていたというのに。


部屋の中を見廻しても、ぴかぴかに磨かれて整えられた美しい調度品が並ぶばかりで、身に着けていたものはどこにも見当たらない。

いくら意識がなかったとはいえ、姫が身ぐるみはがれてしまうなんて。

カフカのお父様がご存命なら嘆かれてしまうわ。



―――っ、そうだわ。


ハッと気付いて指を見る。

あのオラペルトに似た指輪がない。

あれだけは、なくしてはいけないものなのに―――


コンコン・・・


ふいにノック音が響いたので、反射的に毛布を握り締めてその場に座り込んだ。



「ユリア様、失礼致します」


返事も待たずにドアが開き、澄ました顔の若い侍女を先頭に、幾つもの箱を積み上げて抱えたヒト達がしずしずと部屋に入ってきた。

中にはよたよたとしてるヒトもいて、ぐらぐら揺れる箱が今にも崩れてしまいそう。

見る間に部屋の隅に箱が積み上げられていき、開かれたそれからは色とりどりのドレスが次々に出されて、クローゼットの中にどんどん仕舞われていく。

あっけに取られて見てる間に、ものの数分で箱もヒトも消えていった。

窓際で座り込む体の前に侍女の手が差し出される。



「ユリア様、大変失礼致しました。急なことにドレスの手配もままならず、つい今しがたに揃いましたので・・・」



誘導されるままに毛布をずりずりと引きずりながらクローゼットの前に行けば、今揃えられたばかりのドレスをあれこれと出して見せ、侍女はニッコリと微笑んだ。



「さぁ、ユリア様?どれになさいますか?」
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