恋のレシピの作り方
第二十九章 繋がる想い
「様子はどうですか?」


「ああ……まだ意識は戻らないけど、捻挫程度で他は異常ないそうだ」


「そうですか……」


 奈央が搬送された病院の廊下で、一条と羽村は奈央の無事を聞いて緊張の糸がほぐれた様子で一息ついていた。


 一条は廊下の固いソファに腰掛けると顔を覆ってため息をついた。

 階段から落ちてぐったりした奈央を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。どうしてあいつが? どうして麗華が? そんな疑問さえ吹っ飛んだ。ぐったりした奈央の身体を揺さぶるのが恐ろしかった。そして、全てを失った気がした。

「あんな取り乱した司を見たのは数年ぶりですね」

「……」

 沈痛な面持ちを見かねた羽村が揶揄混じりの言葉をかける。それでも反応がないと、羽村は小さく鼻を鳴らして言った。



「司、盗作の件は……ある程度目星がついていたんでしょう?」


「ああ……まさかとは思ったが、本当にあの男が俺のレシピを盗んで、麗華や生田がリークしてたとはな、因縁もいいところだ」


「しかし、清家も馬鹿な男ですね……自らフードインスペクターの網にかかるとは」


 夜の病院の廊下は所々にしか照明がなかったが、煌びやかな高層ビルの灯りがうっすら窓から静かに差し込んでいた。


 
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