恋のレシピの作り方
「清家の余罪は……芋づる式に明らかになるはずです。今、調べさせているところですが……」


「なんとなくだが、清家が俺のレシピを狙っているのは感づいていた。けど……あの男の行動を様子見ようと泳がせていたばっかりにあいつが……」

「司……?」


「もっと早く手を打っていればこんなことには……」


 一条は組んだ指に額を埋めて震える唇を噛む。そんな様子を横目に羽村が静かに言った。



「春日さんに協力を求めたのは私です」


「え……?」


 抑揚のない羽村の言葉が一条の胸をついた。額に埋めていた顔をあげると、羽村の鋭利な視線が一条を見据えていた。


「広告塔になるということはローザンのため、アルページュのためと私も始めはそう思っていましたが……次第にシェフとしての輝きが失われていくあなたの姿を、彼女は誰よりも気にかけていた」

「……」


「シェフとして有名になっていくに連れ、著しく増えていく外部からの悪影響を避けるため、フードインスペクターである私を傍に置いた―――」



「悪い、ちょっと一人にしてくれ」

 一条は軽く手のひらをかざすようにして淡々と語る羽村の言葉を制した。


 ―――とにかく今は一人になって考えたい。


「……oui」<はい>

 まだ何か言い足りない様子の羽村は渋々言葉を呑み込むと、軽く頭を下げて廊下の闇に消えていった。


< 441 / 457 >

この作品をシェア

pagetop