恋のレシピの作り方
 ―――薄暗い病室。


「おい、聞こえてるか?」

 一条はいまだ意識の戻らない奈央のベッドの傍らに座り、独りごとのように語りかけた。こうして見ると、ただ静かに寝ているようだ。そんな奈央の白い頬に手を伸ばしてそっと撫でる。ピクリともしない瞼に、一条は胸が締めつけられた。



 ―――だから余計なことするなって言っただろ。

 この閉ざした瞳が開かれたら、思わずそう言い責めてしまいそうだった。一条は奈央の手を握りながら、自らの頬に寄せて手の甲に口づけた。



「俺のためにこんな一生懸命になって、怪我までして……」

 忍び寄る黒い影に気づかなかったわけではなかった。
 
 必ず清家の尻尾を掴んで自身で解決すると決めていた―――はずなのに……。結果的に奈央を守れなかったという後悔の念に押し潰されそうで一条は顔を歪めた。


「ごめん……」

 言葉にならない声が零れ、一条はもう一度奈央の頬を撫でた。

「こんな馬鹿な男のために、お前は一生懸命になって……」

 
 こみ上げてくる想いを抑えることができずに一条は掠れた声で言った。



「奈央……お前が好きだ―――」

 ―――その時。
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