プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
「今日はうちの宿で休んで、明日、清水寺まで付き合ってくれるかな?」
「はい。分かりました」
「一緒の部屋でもいいけど?」

 艶っぽい眼差しを向けられて、私はドキッとする。

「……あの、ごめんなさい。それだけは……」
「了解。これ以上困らせると嫌われてしまうからね。じゃあ、おやすみ」

 市ヶ谷副社長は手を振って、隣の部屋に入っていった。

「おやすみなさい」

 私は今度こそホッと胸をなでおろし、市ヶ谷副社長の背が消えるのを見送ったあと、隣の部屋の中に入り、ふっと一息ついた。

 接待と移動が続くとさすがに疲れてくたくたで……せっかく温泉があっても入る気力が残っていない。

 今頃、潤哉さんはどうしているだろう。夕食を終えてマンションの部屋でゆっくりワインでも飲んでいるだろうか。

 それとも……もう眠っているだろうか。連絡をするつもりだったけれど、思いのほか時間がかかってしまった。
 
 向こうからかかってこないということは仕事が忙しいかもしれない。

 中庭の見える奥まで進んでぼんやりと月を見上げていると、ケータイがピリリと音を立てた。


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