プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
 副社長に就いたのは……。

 僕がロンドン支社を任されている間、ここで社長を務めていた市ヶ谷透《いちがや とおる》さんだったからだ。

 それだけではない、彼は僕を育ててくれた人と言ってもいい。
 彼のプライドを窺うと、待っていたといわんばかりに微笑みを湛えた。

「僕が志願したんだよ。あの頃、若かった君がどのくらいの手腕を持っているのかどうか。目の上のたんこぶが側にいるのは不服か?」

「正直やりづらいですが、上からの命令なら仕方ないですね」

「興味があるのは……秘書の子だけど」

顔色を変えるようにしたくはなかったが、彼の場合はビリー・ハウエル氏と違って、冗談のように聴こえないからだ。


< 86 / 137 >

この作品をシェア

pagetop