天使の舞―前編―【完】
乃莉子の顔を見て、青年は軽く目を見張ったのだが、すぐにその表情は消され、眼鏡の奥には冷ややかな瞳が残された。


黒き翼を持つその青年は、優雅な足取りで乃莉子に近づくと、何も言わずに顎に片手を添えた。


そして、乃莉子の顔を自分に向けて、ぐっと近づく。


品定めでも、しているのだろうか。


乃莉子を舐めるように見つめている。


「お前が俺を、ここへ導いた女か…。
ふん。美しいな。
キャスめ。
いい女を見つけたもんだ。
実に俺好み。誉めてやろう。」


独り言を言うかのように呟いた青年は、乃莉子の顎から手を離し、ふっと浅く笑った。


「いきなり何なんですか!
失礼じゃないですか!」


乃莉子の顔は赤くなり、照れて怒ったフリをした。


怒っているのは確かだが、青年のあり得ないほど整った顔が近すぎて、恥ずかしがっていることを、悟られたくなかったのだ。

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