天使の舞―前編―【完】
「女…。名は何だ?」


静かに、でも威圧的に青年は言った。


「そう言うあなたは?」


怪訝そうに、乃莉子は同じ質問を返した。


また、名付け親がどうのこうのと言われでもしたら、敵わないと思ったからだ。


聞いてどうする?と、言わんばかりの表情をして、青年はその低く甘い声で、自らの名を語った。


「魔界の王子であるこの俺に、名を訊ねるか?
ふん…人間が、悪魔にな。
まぁいい。
今の俺の名は、アマネ。
だが、この名は消滅する。
これからお前が俺に、新しい名を付けるのだからな。」


『今度は悪魔?
読み通りじゃないの…。』


乃莉子は心の中で、軽くため息をついた。


「で…?お前の名は?」


反論を許さない圧倒的命令の言い方で、アマネと名乗った青年は乃莉子に、同じ言葉を繰り返す。


少し怯んで躊躇ったが、乃莉子はあまりに威圧的なアマネの声と、先に相手に聞いてしまった事で、自分も名乗らずにはいられなくなった。


「の…乃莉子。広木乃莉子。」

不本意ながら、乃莉子は小さく呟く。


『どうしよう。
振り向かずに、走って逃げればよかった…。』

乃莉子の本能が、そう自分へと警告を出していた。
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