スイートなメモリー
「前はそういうのわからなかったよ。なんで泣いたり怒ったり、もういいとか、でもダメとか言われるのかわからなかった。遠慮されるのはそこまで愛されてないからかと思ってたよ。今日のお前の格好見て良くわかりました。お前はすぐ人に合わせる。それで色々迷ってて、話を聞いてもらいたいと思った相手が俺なんだったら、俺はちゃんと聞くよ。今なら聞けると思うよ。俺だって少しは大人になったんだから」
「あたしは全然大人になれてない……」
「いいんだよそれで」
カウンターの上に、ソルティドッグとマルガリータが置かれる。
乾杯もせずに二人同時に口をつけた。
学人さんのことを、笠置にどこまで話したらいいのか考える。
全部は話せない。
でも、私が学人さんと付合っていることに不安を感じていること、学人さんにとってプラスにならないのではないかと考えていること、学人さんと一緒にいると、なぜか劣等感を感じてしまうこと、若い彼に気後れすることなどを、少しづつ、笠置に話した。
もちろん、色々矛盾しているところや、わかりづらいところもあったと思う。
それでも笠置は深く追求はせずに、私の言葉を質問で補足しながら辛抱強く聞いてくれた。
私が時々、笠置の顔色をうかがうように「怒ってない?」と聞くのにも「怒ってどうする。今は俺は芹香の彼氏じゃない」と答えてくれた。
助かった。
笠置に甘えているという自覚はある。
それでも甘えずにはいられなくて、自分が悩んでいることを認めたくなくて、笠置の口から「お前はその男と付合うことを悩んでいる」と言われたいのだ。
ずるいのは分かってる。
笠置はなんというだろう。
学人さんがいい男だからそのまま付合えと言うだろうか。
「いい男だと思うけどね」
笠置が、3杯目のソルティドッグを飲み干してから言った。私は笠置の顔をじっと見る。
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