スイートなメモリー
ブライダルエステに通おうだなんて、以前の私だったら絶対に考えなかっただろう。
なかったことにするあれこれだって、今の私を作る大事な要素になっているのだ。
マッサージが全て終わって、シャワーを浴びるためにバスローブを着る。
タオルを持って待っているエステティシャンが、場をつなぐように話しかけてくる。
「そういえば、引き出物ってどうされたんですか?」
「主人が、仕事先で色々選んでくれたの。どうせなら、来てくれた女の人たちがもらって喜べるようなものがいいだろうって言ってくれたから任せることにしました」
「それはいいですねえ。ご主人素敵ですね」
アップにした髪を直しながら、首元にそっと手をやる。
主人、と口にする度に。
ご主人、と他の人の口から言われる度に。
左手の薬指にはめた指輪ではなく、何もつけていない首元に触れてしまうこの癖を。
本当にどうにかしたほうが良いと思う。
こんなに首元を気にしてしまうくらいなら、ためらわずにチョーカーを付けることを選べばよかったかもしれない。
そうすれば、この癖も気にならなかったかもしれないのに。
あとで主人に、ドレスを変えることも相談してみよう。
相談はしてみるけれど、難色を示されたら変えずにそのままで。
なるべくならば、主人が良いと思うことを優先したい。
私は主人のものなのだから。

それが私の生き方。
< 123 / 130 >

この作品をシェア

pagetop