スイートなメモリー
地上七階。
人によってはそれほど高いとは感じないかもしれない。
高いよ。
灰皿を非常階段に置くのを決めたのは誰なのだろう。

非常階段からは外の景色が良く見えて、顔を下げれば下の階まで良く見える。
見上げれば女子社員のスカートの中が見えそうだなんて噂が流れたこともあって、喫煙者の私はその噂を聞いてから会社にはパンツスーツで来ることにしている。
自意識過剰と言われても構わない。
仮にスカートで来たとしても「年甲斐もなく……」なんて言われるのも容易に想像できる。
そんなことをつらつら考えていても高いところはやっぱり怖いし、タバコを吸うのを我慢するのと天秤にかけたら、圧倒的にタバコの勝利だ。

でも今はサンドイッチ。
非常階段の脇にかがみこんで、こっそりサンドイッチを食べる。
別に自分の席で食べても構わないのかもしれないけれど、なんとなくみっともない気がしてここまで来てしまった。
こんなところを誰かに見られたほうがよほどみっともないというのに。
サンドイッチを食べ終わり、立ち上がってタバコを吸う。
やっぱり高い。
もう一度かがみこむ。
タバコを吸いながら、今朝のことを思い返してみた。
三枝君、案外親切なところあるんだなあ。
きっと私が怒ってると思ってるよね。
でもなあ。
なんで私、今日はこんなに三枝君のこと気になるんだろう。
あの子いくつだっけ……。
今年新卒で入社だから二十二か。
二十二! 二十二! 若いよ!
なに私そんな若い子のこと気にしたりして!
いやいやいや。別にそんな男として意識してるとかじゃないから。
断じて違うから!
もうちょっと真面目に仕事すればいいのになって思ってるだけだから!
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