スイートなメモリー
運ばれてくるのはジェラートが一つとコーヒー二つ。
俺はくらげの居場所も思い出して一安心。
ここにいるくらげよりももっと小さいし数も少ないから見劣りするけど、それでも喜んでもらえたら嬉しい。
いやどうだろう。
ていうかそこまで連れて行けるのか。
連れて行けなかったらショックだなあ。
でもほら明日土曜日で休みだし。
それに芹香さんもいつものパンツスーツだけど、インナーのブラウスがいつもよりちょっとだけ可愛い感じだし。
ほらそれに。さっきから俺、芹香さんって呼んでいるけど怒られてないからいけそうじゃない? そんなことない?
そして俺は聞かなきゃいけないことを聞くのをすっかり忘れていたことに気がつく。

「芹香さん。芹香さんは、彼氏はいますか」
俺も自身で面倒な人間だと思う。
このまま畳み掛けてどこか連れ込んでやっちまったって構わないし、それでその後つきあうとかつきあわないとか、彼氏が実はいたとか、後から対処すればいいことなのに、アクションを起こす前に確認しておかないといけないように思ってる。
それに、もしこのあと芹香さんが俺に時間をくれたとして、俺は今夜限りにするつもりもないのだし、それはわかってもらいたい。
奴隷にするのだったら、別に他に彼氏がいようが旦那がいようが構わない、主従に恋愛は必要ないというご主人様もいるけれど。
俺は何となくイヤなんだよね。
俺だけを見てほしいし、SMだけの関係はなんとなくだけどつまらない。
好きだからこそ言うことを聞かせたいし、かしづいてもらいたい。
もっとも、そこまで調教できるかどうか、それこそスタートラインに立てるかどうかも微妙な今だけれど。

ジェラートのスプーンを口から離した芹香さんが、俺を見て小さく微笑んだ。かわいいなあ。
「居たら、今日ここには来ていないわ」
良かった! よかったー! 俺の不安要素がひとつなくなった。
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