スイートなメモリー
この前楽しかったことで浮かれているのは俺だけですか? 
それとも仕事とプライベートはしっかり切り分けなくてはいけないものですか。わかっちゃいるけど最初くらいは浮かれてみたっていいもんじゃないんですか。
そんなことないの?
どうしてあなたはそんなに変わらずに居られるの。
くっそう。次に会った時にはもっと泣かしてやる。
机の下で拳を握って、小さな闘志を燃やす。
次はどこから責めていこうかと考えながら俺は残業してまでテキスト修正に励んだ。誤字脱字のひとつもなく完璧にするために。
おかげで芹香さんが帰りがけにくれていた「今日終わったらお茶くらいならできます。時間あったら連絡ください」というメールに気がついたのは帰宅するための電車に乗ってからだった。
涙を飲んだ。
相手の方が相当上手。
ごめんなさいすみませんメールくれていたのに気がつきませんでした。週末空けてもらえませんか。とみっともないのも気にせずにメールを送る。
「週末空けておきます。この前ごちそうになったので今度は私に出させてください」と戻って来たメールを見て、俺は心の底から安堵して、家に帰ったら色々道具を探さなきゃと考える。
「ありがとう。お言葉に甘えて芹香さんに任せます」と返信をうちながら、大事になことに気がついた。
四○四に行って、俺の首輪を取り返さなくちゃ。
週末に芹香さんの首に嵌められるかどうかはわからないけれど、それでも俺はあれを俺の手元に戻しておきたい。
係女王様と可愛らしい芹香さんのギャップに俺は溺れそう。
立派なご主人様になるために、俺は学人専用首輪をいつでも手元に置いておかなくちゃ。
係女王様が、あれをその首に嵌めさせてくれると良いのだけれど。
色々関係がねじくれているのはわかってる。
けれど俺は、自分が芹香さんのポーカーフェイスに振り回されて、あの人を自分のものにしたいという気持ちがさらに沸き上がっていることにも気づいている。
あの人には、わからないだろう。
いいんだそれで。
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