スイートなメモリー
なにを着ていったらいいのか迷っていた。
クローゼットから色々な服を引っ張りだして広げては、あれでもないこれでもないとかれこれ一時間ほど悩んでいる。
この前は会社帰りだったからなにも迷うことはなかった。
けれど明日は土曜日で、さすがに会社に着ていくスーツというわけにはいかない。どうしたものか。
三枝君の私服も当然私は見たことが無い。
今時の二十二歳は普段どんな格好をしているんだろう。
一緒に歩いて遜色ない格好をしたいと思った。
私の方が年上に見えるのは仕方のないこと。
なので無理に釣り合うようにしようとは思わない。せめて私の私服を見た時に、三枝君が誘ったことを後悔しないでくれるくらいの格好で行きたい。
「無理に若作りしても仕方ないしねえ……」
独り言を言いながら、クローゼットから茶系のカシュクールワンピースを取り出してみる。
鏡に向かって、ワンピースを自分の身体の前につり下げてみた。
心配になって一度着てみることにした。
アンダーバストのあたりでリボンを結ぶようになっている。背中のファスナーをあげるのに苦労したらどうしようかと思ったが心配はなかった。
露出が過ぎるということもないし、七分袖だからこの上にカーディガンを羽織っておけば帰りに寒いということもないだろう。
デートに背中ファスナーのワンピースを選んで着ていくなんて物欲しげに思われても仕方がないが、正直なところまた肌を合わせたいと思っているのは確かだし、この前感じたあの感覚をまた味わえるのかどうか確かめたいとも思っている。
決して若い身体を貪りたいと思っているわけでは、ないと思う。
「欲求不満なのかしら……」
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