スイートなメモリー
とはいえ、雪花さんや美咲が言うのもあくまでも想像であり「おそらくこういうことだと思う」というのでしかない。
俺としては、結局のところ「俺が年下で頼りないクセしてそれなのにご主人様とかゆっちゃってえらそうだから不安てこと?」となってしまうのだが、雪花さんにしろ美咲にしろ、そして当の本人の芹香さんも「そうじゃない」としか言ってくれない。
だったらもっとはっきり言ってくれないと対処に困るというのもことあるごとに主張しているのだが「そんなこと言えない」とか言われてまた泣かれる。
色々と会話を重ねていって、俺は芹香さんの不安を出来る限り払拭しようと努力した。「どうせ私は学人さんのペットなんでしょう」という芹香さんのふてくされた態度にだって怒ったりはせずに「それはそうなんだけど、そうであってもちゃんとつきあってるんだし芹香さんは俺の恋人なんだよ」とたしなめてきた。
「私が上司でえらそうにしてるからその鬱憤を夜はらしているんでしょう、私が上司でなかったらなんの価値もないんだわ」というものすごくねじくれた後ろ向きな態度にも「そうじゃなくて。俺が仕事できないのと芹香さんを虐めたいのは別の次元なんだから」となだめてきた。
実際のところ、彼女がなにを不安に思っているのかなんとなく想像はついている。おそらく「この先付合い続けて将来的にどうなるのか」というところだ。
はっきり言葉にはしないものの、「結婚を考えているのかどうか」ということなのだと思う。
それを雪花さんに確かめてみたところ「よく一人でそこまでたどりつけたわねえ。屑すぎてずっと気がつかないかと思っていたわ」と罵倒された。
しかしながらそれについては、さすがにわからないとしか言えない。
二ヶ月ちょっとでそんなことわかるものか。
そして芹香さんだって今の俺にそれを問うても「今はわからないよ」という答えが出てくるのがわかっているからはっきり聞けないのだろう。
俺もそれを、だんだん理解してきた。
女めんどくさい。
とはいえ、そのめんどくさいところを攻略するのもなにげに楽しくて、俺はふてくされた芹香さんをなだめて笑顔にするのも楽しんでいた。
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