スイートなメモリー
「俺、最近いつも泊まれるようにネクタイ別なの持って来てたりするんだけどね。でも芹香さん着替えないものねえ。残念だな」
右手に、芹香さんの少し冷たい手が重ねられる。
いやもうだめだめっ。
そんな触られちゃったら俺もうほんとどうしたらいいか。
期待通りの答えを出してくれるならいいけど、そうでないならがっかりしちゃうじゃない。
芹香さんの答えが怖い。
期待と不安で背中に汗が浮いてくる。
どうする。
どう出る。
芹香さんが俺の手を握って、意を決したように潤んだ瞳を向けて来た。
「うち、来る?」
ありがとうございます! 思わず「いいの?」と問いかけそうになってしまうが、そうすると狙っていたのがバレてしまいそうなのでぐっとこらえる。
さあ気が変わらないうちに行かなくちゃ。
俺ってもしかして相当に幸せなんじゃないかしら。
なだめたりたしなめたりしてるけど、結局のところ色々な決定権は芹香さんにある。芹香さんは俺のものだけど、俺が芹香さんの決定に従うしかないところも多々あるわけで。
飼い主は俺だけど、もしかしたら振り回されて溺れているのは俺のほうなのじゃないかしら。
俺は、伝票を持って先に出ようとする芹香さんの後をついていく。
視線は当然のように、ストッキングの下はなにも履いていないという芹香さんのお尻に釘付け。
ああ早く脱がせたい。
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