スイートなメモリー
金曜の夜だが芹香さんが生理中で会いたくないというので、素直にそれに従って四○四へ久しぶりに赴く。
俺がインタホンを押そうとしたところで、帰る客と入れ違いになり、この店にはまた俺しか客の居ない状態。
なんで? 俺、他のお客さんから避けられてる?
「そういうわけではないと思いますけど。偶然だと思いますよ」
「学人さんがいつも一人で来るからじゃないかしら? ひと月も姿を見せないでいたんだからお土産代わりに自分の奴隷を見せびらかしに来たっていいと思うのだけれどその辺りはいかがお考え?」
美咲からは遠慮がちな慰めを。
雪花さんからはちくりと嫌み。
俺は美咲にジントニックを頼んでから、肉子を連れてソファへと腰を落とす。
「その奴隷が会ってくれないから遊びに来たの。ちなみに振られたわけではないですからね」
会ってくれない、と言ったときの雪花女王の表情を見て先制攻撃。
なーんだつまんないの、と雪花女王は女王口調を崩してただの雪花さんになる。
美咲はそれを見てニコニコと笑っている。今日もエナメルのメイド服が可愛らしい。
「美咲ちゃんはこんな威厳のない女王様でイヤじゃないの?」
雪花さんがむっとして、スパンキング用のパドルで俺の頭を思い切り叩いた。
「痛いよ」
 美咲が頭を撫でてくれる。
「美咲は、雪花さん大好きですよ。女王様らしいときもそうでない時も」
らしいらしくないで言ったら、今日の雪花さんは格好も女王らしくない。
色こそ黒ではあるけれど、シフォンのフリルシャツにスキニーデニム。
「見た目とか態度とかだけで女王らしいとからしくないとか判断されるのは嫌い。いつでも全力百パーセントにフルタイムで女王なんかやれないわ。好きでやってることが負担になったらつまんない」
「雪花さんのそういうところが美咲は好きです。美咲はメイド服大好きなので着られる時は着ますけれど」
好きでやってることが負担になったらつまらない、か。
そりゃそうだよな。
俺は、床に置いたカバンと一緒に置いたビニール袋をカバンで隠すように押し込む。が、その抵抗も虚しく雪花さんがめざとく見つける。
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