ラッキービーンズ【番外編】
「な、何……ですか、水嶋さん」


小さな声でよそよそしい態度を取ると、その演技の不自然さに水嶋がプッと吹き出す。


「前、聞いてないから大丈夫だよ」

「あ、う、うん」


言われた通りに前を歩く二人を見ると、何鍋にするかで盛り上がっている。

二人とも夢中になっちゃうと周りが見えなくなるタイプだから、確かに後ろにいる私達の会話なんて聞こえてないんだろう。


だけど、私は水嶋みたく上手にオンオフの切り替えなんてできないよ……!


「いつもヤギにあんな風に絡まれてんの?」

「いつもってわけじゃ……、さすがに社内じゃ抱きついてこないし」

「社外じゃ抱きつかれたことあるんだ?」

「……」


さーっと血の気が引いていくのが分かる。

八木原くんとキスまでしちゃったことは、水嶋にはまだ言っていない。


今にして思えば、あのときすでに私は水嶋の彼女だったわけだから、

立派な浮気と呼べる行為だ。


「ご、ごめん……」

「ふーん」


やたら冷たい「ふーん」にまた私の体温が下がる。

こんなことなら事前に話して謝っとけばよかったよー!
< 14 / 68 >

この作品をシェア

pagetop