月夜の翡翠と貴方


私はそんな少女を、複雑な感情で見つめていた。


何か食べようかという事で、昨日と同じパン屋へ足を運んだ。

昨日もそうだったのだが、ここをリクエストしたのはスジュナだ。


店内で、スジュナが嬉しそうに棚に並んだバスケットを眺める。

何故この店なのか、 と訊くと、それは嬉しそうに笑って、言うのだ。


『パパが大好きなパン屋だから』と。


さほど広くない店内をうろうろしながら、スジュナはパンを選んで回る。

その姿を見つめながら、昨日のスジュナのあの瞳を思い出した。


…あの虚ろな目は、奴隷特有のものだ。

まるで何かに囚われたかのように、瞳の色を暗くし、何処も見ていないのではないかと思わせるほど、光を失くしている。

その視線はまるで、何かを求めているようで。

愛を知らない奴隷の子供は、愛してくれるものに執着する。

どんな歪な形であれ、子供がそれを愛だと思ったのなら。

それを、それだけを、生きる希望とするのだ。



< 138 / 710 >

この作品をシェア

pagetop