月夜の翡翠と貴方
私はそんな少女を、複雑な感情で見つめていた。
何か食べようかという事で、昨日と同じパン屋へ足を運んだ。
昨日もそうだったのだが、ここをリクエストしたのはスジュナだ。
店内で、スジュナが嬉しそうに棚に並んだバスケットを眺める。
何故この店なのか、 と訊くと、それは嬉しそうに笑って、言うのだ。
『パパが大好きなパン屋だから』と。
さほど広くない店内をうろうろしながら、スジュナはパンを選んで回る。
その姿を見つめながら、昨日のスジュナのあの瞳を思い出した。
…あの虚ろな目は、奴隷特有のものだ。
まるで何かに囚われたかのように、瞳の色を暗くし、何処も見ていないのではないかと思わせるほど、光を失くしている。
その視線はまるで、何かを求めているようで。
愛を知らない奴隷の子供は、愛してくれるものに執着する。
どんな歪な形であれ、子供がそれを愛だと思ったのなら。
それを、それだけを、生きる希望とするのだ。