月夜の翡翠と貴方


その愛を守るためなら、奴隷達はなんでもする。

自分が許容する範囲ならば、時に限界すら超えても、自分の執着する何かを守り抜こうとするのだ。


私だって、この前までそうだった。


エルガに愛を見出し、彼の店での幸せを守ろうとした。

今まで過ごしてきたいくつもの奴隷屋でも、ああいう目をする奴隷は何度も見てきた。

執着するのは、主人だったり、思い出の何かだったり、様々だ。



「おねぇちゃん、これ」


スジュナがにこにこと笑って、クロワッサンを指差していた。

「パパが、美味しいって教えてくれたの」

曇りのない笑顔は、その純粋な心を表しているかのようで。

…この子が執着するのは、他でもないラサバだ。


「あっ」


何かを見つけたのか、スジュナが小さく声をあげた。

「おねぇちゃん、これこれ!」

わたわたと指差す先にあった、丸い形のパン。

それを取ろうとすると、横から伸びてきた手と手が当たった。

最後の、ひとつ。

驚いて横を見ると、同じようにパンを取ろうとしている女性が立っていた。


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