月夜の翡翠と貴方
「………あ、すみません」
「あ、いえいえ、こちらこそ~!」
長い銀髪を揺らした彼女は、ハキハキとした口調と、よく通る声で笑った。
綺麗な女だ。
人に好かれそうな、大人びた表情。
きっと、私よりも少し、歳が上だろう。
女の長いまつげが、パンに向かって伏せられた。
「…でも私、このパンが久しぶりに復活したって聞いて、来たのよね…よければ、譲ってくれないかしら…」
紫の双眸を輝かせ、懇願するかのように彼女はこちらを見つめてきた。
「…あ、じゃあ」
「やだ」
譲ろうとすると、下からパンを見つめていたスジュナが、むっとした声を出した。
「パパが大好きなパンなんだもん。パパと半分こにして食べたい…」
「……スジュナちゃん…」
眉を下げ、物欲しそうにパンを見つめるスジュナを見て、女が感嘆の声をあげた。
「なんて素敵な親子愛…!いいわ、お嬢ちゃん。このパン、譲ってあげる!」
スジュナと目線を合わせると、彼女はその顔を先程よりも輝かせて言った。
よほど、スジュナに感動したようだ。
「…ほ、ほんとう!?」
スジュナも、ほんの少しうるんだ瞳を輝かせる。