月夜の翡翠と貴方
私は、スジュナの目をしっかりと見据えた。
「…ねぇ。どうしてスジュナちゃんは、そんなに明るくいられるの?」
私の言葉に、スジュナは丸く目を開く。
あの虚ろな瞳は、この子がラサバに買われたということを、唯一示すものだった。
もとが奴隷であったという、証。
少女自身も知らないであろう、ラサバへの狂気にも近い愛を抱えている、証拠。
スジュナは少し考える素振りを見せた後、ぼそほそと話し始めた。
「…えっとね、スジュナも最初は、パパのこと、ご主人様って呼んでたの」
「…うん」
その様子を想像して、とてつもない違和感がした。
「でもパパが、パパって呼びなさいって言ったから、パパって呼んだの」
...やはり、最初はふたりもそうだったのか。
突然見知らぬ、それも自分を買った男を父だなんて、いくら幼くても難しい。
「パパが、わたしをパパと思いなさいって言ったから、パパだって思うようになったの」
…まるで、刷り込みだ。
卵からかえった雛鳥が、最初に目に映したものを、無条件に親だと思うように。
しかし、それが当時のスジュナには当たり前だったのだ。