月夜の翡翠と貴方
「ジェイド」
ルトが名前を呼んでくるけれど、私は顔を上げることができない。
...ああ。
貴婦人とぶつかったことで、我に返った。
なんてこと、言ってしまったんだ。
ルトは今どんな顔をしているのだろう。
どんな気持ちをしているのだろう。
...恥ずかしい。
「ジェ……………」
「ルト!」
もう一度私の名を呼ぼうとしたルトの声を、陽気な女の声が遮った。
そちらを見ると、人混みに紛れて、茜色の髪を後ろにひとつに束ねた、美しい女がいた。
ルトを呼んだのは、この女のようだ。
「ミラゼ」
ルトが女を見て、そう言った。
人の流れなどまるで気にしないのか、人をかき分けて彼女はこちらへ来る。
「久しぶりー!こっち来てたのね。今から何処へ行くのかしら」
大人びた、というか恐らく私よりいくらか歳上に見えるその女は、ルトへ親しげに話しかけた。