月夜の翡翠と貴方


…こちらを見向きもしないルトに、本当に終わったんだ、と思った。

…なのに。




「ごめんな」


ー…小さく、私の耳元で。


愛しい愛しい、声がした。


目を見開いて振り返ると、ルトは優しい、憂いた微笑みを浮かべて、こちらを見ていて。


それは私が愛しいと感じる、笑顔で。


「………っ」


ルト、と呼ぶ前に、彼は扉を開けて、部屋を出ていった。

…ルト。

ルト、ルト!


やりとりに気づいていないマテンが、見送りに行くのか、ルトを追って部屋を出て行く。

一緒に、黒髪の男も出て行った。


「………………っ」

部屋には、私の後ろの壁際に、紫の髪の男が立っているだけで。


…その男が、変わっているからか。

私は、へた、と床に腰を下ろした。


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