淫靡な蒼い月


「……さみしい」


そう、ささやくきみの唇を、ぼくは塞いだ。


ぼく自身の唇で。


「……さみしい」


そう言って泣くきみを、ぼくの唇と体で、少しでも慰めてあげられるなら


抱いてあげる。


決してさみしくないよう、寒くないよう


それが誰の代わりでも、かりそめだとしても


それできみが、癒されるなら、心安まるのなら


構わない。


「……さみしい」


ねぇ、泣かないで。


「……さみしい」


言わないで。


海を越えた想い人より、ぼくが側にいるから。


空が邪魔して届かない腕よりも近くで、抱き締めてあげる。


唇を、暖めてあげる。


涙も、拭いてあげるから。


この胸で包んであげるから。


だから、きみは安心して、彼の名を呼べばいい。


ぼくに彼を重ねてその名を呼んで。


彼の名を……。


構わないから、きみが誰を見ていても構わないから。


抱いてあげる。


キスしてあげる。


強く、深く。


決してその唇が、ぼくの名を、口にしなくても……。


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