淫靡な蒼い月

コンクリート・ビースト



この興奮は何?


皆、さっきまでのあたしなんて知らない。


まさに“秘め事”


あの淫らさを知っているのは――


さっきまで激しくあたしを抱いてた、あなただけ。


今は仏頂面で部下の持ってきた書類に目を通している。


ねぇ、今、キーボードを叩いてるその指


あんなにセクシーな動き、するなんて知らなかった。


普段は不機嫌なその声も


あんなささやきをするのね。


皆が忙しなく午前中の業務をこなしていた時間。


あたしと彼は“取引先との打ち合わせ”と称して、狭い、二人だけの場所に行ってた。


誘ったのは、あたし。


彼の運転する車の助手席で、あたしはそっと、彼の弱点に指を伸ばした。


“そこ”が弱いって事は、ちゃんと知ってる。


彼は黙って、車をいつもの駐車場へ向けた。


キーボードを叩く指


ファックスの送受信


鳴り止まぬ電話と同僚たちが口にするマニュアル


給湯室のコーヒーメーカー。


誰もが事務的に、意欲的に、または怠惰でこなす仕事


そんな仲間たちを意識しながら泳ぐ海は――


格別な興奮をあたしにくれる。


快楽を連れてくる。


ほんの少しの罪悪感を凌ぐ興奮。


彼だって、同じはず。


だって、そんな時ほど、凄いもの。


いつもを凌ぐ――汗。


都会のジャングルて本来の“獣”に戻るのは、これ以外にはない。


ね、明日も


明後日も


誘って……いいでしょ?


あのささやきを、興奮を、もっともっと、あたしにちょうだい。


あたしは、コンクリート・ビースト。




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