淫靡な蒼い月
汗
真夏の太陽を浴びて弾け飛ぶ、無数の水滴。
まるでそれは、青春の象徴。
喉が鳴る。
水が欲しいわけでもないのに
喉が鳴る。
――欲しい。
水道から勢いよく放たれる太くて白い流水に、彼が焼けた頭を突っ込んだ。
跳ねる水飛沫が、彼の肩に当たって跳ね返る
首筋や顎、鼻から滴る水が、程よくついた筋肉を滑り、鎖骨を潜って胸へと到達し、ユニフォームに染みを作っていく。
何だか、とてもエロディックで、タオルを持つ手が、ぐっしょりと濡れた。
浮き出た背骨の規則正しい隆起が、汗と水で光っている。
ランニングの背中にも、染みが作られている。
凄く、なやましい。
――欲しい。
「きっもちいいっ!!」
突然、彼が勢いよく頭を上げ、まるで真珠の連なりのように、水滴がそれを追って円を描いた。
弾け飛ぶ丸い水滴が、更に彼の上半身を濡らして光らせる。
「うわぁ、汗でびっちょびちょ」
濡れた長い前髪を乱暴に後ろに流しながら、彼が笑う。
「なぁ、氷くれる?」
隣でスポーツタオルを持って立っていたオレに、彼がそう言ってまた笑った。
綺麗な白い歯が、オレを惑わす。
「何してんだよ、氷」
端正な顔を髪から下
る水滴が隠す。
もったいない。
「――ったく」
見とれて動けないオレに、いきなり、彼が顔を寄せてきた。
トラックではまだ、他の部員たちがストレッチやジョギングをしている。
「――何て顔、してんだよ」
オレに顔を寄せたまま、彼がそうささやいた。
思わず後ずさったオレの踵が、水道脇のクーラーボックスにぶつかる。
「仕方ね~奴だな」
オレから顔を離し、彼が自分でクーラーボックスを開ける。
鼻先にふわりと、汗の匂いがした。
身体が、熱くなる。
別の、熱で。
「――おい」
胸が、苦しい。
悟られたかもしれない。
密かな気持ち。
「おい」
彼の呼び声にハッと振り返った瞬間。
大きな氷が、彼の舌に絡めとられるのが見えた。
「あ……」
赤い舌が、誘うように動いている。
胸が、高鳴った。
そんな、彼の舌に絡めとられた氷が、次の瞬間――
彼の繊細な指で、オレの唇に押し当てられ――口の中へと入れられた。
「続きは後でな」
口の中で、彼の舌と交わった氷が、溶けてゆく。
ほんのりと、汗の味がした。