淫靡な蒼い月



真夏の太陽を浴びて弾け飛ぶ、無数の水滴。


まるでそれは、青春の象徴。


喉が鳴る。


水が欲しいわけでもないのに


喉が鳴る。


――欲しい。


水道から勢いよく放たれる太くて白い流水に、彼が焼けた頭を突っ込んだ。


跳ねる水飛沫が、彼の肩に当たって跳ね返る


首筋や顎、鼻から滴る水が、程よくついた筋肉を滑り、鎖骨を潜って胸へと到達し、ユニフォームに染みを作っていく。


何だか、とてもエロディックで、タオルを持つ手が、ぐっしょりと濡れた。


浮き出た背骨の規則正しい隆起が、汗と水で光っている。


ランニングの背中にも、染みが作られている。


凄く、なやましい。


――欲しい。


「きっもちいいっ!!」


突然、彼が勢いよく頭を上げ、まるで真珠の連なりのように、水滴がそれを追って円を描いた。


弾け飛ぶ丸い水滴が、更に彼の上半身を濡らして光らせる。


「うわぁ、汗でびっちょびちょ」


濡れた長い前髪を乱暴に後ろに流しながら、彼が笑う。


「なぁ、氷くれる?」


隣でスポーツタオルを持って立っていたオレに、彼がそう言ってまた笑った。


綺麗な白い歯が、オレを惑わす。


「何してんだよ、氷」


端正な顔を髪から下
る水滴が隠す。


もったいない。


「――ったく」


見とれて動けないオレに、いきなり、彼が顔を寄せてきた。


トラックではまだ、他の部員たちがストレッチやジョギングをしている。


「――何て顔、してんだよ」


オレに顔を寄せたまま、彼がそうささやいた。


思わず後ずさったオレの踵が、水道脇のクーラーボックスにぶつかる。


「仕方ね~奴だな」


オレから顔を離し、彼が自分でクーラーボックスを開ける。


鼻先にふわりと、汗の匂いがした。


身体が、熱くなる。


別の、熱で。


「――おい」


胸が、苦しい。


悟られたかもしれない。


密かな気持ち。


「おい」


彼の呼び声にハッと振り返った瞬間。


大きな氷が、彼の舌に絡めとられるのが見えた。


「あ……」


赤い舌が、誘うように動いている。


胸が、高鳴った。


そんな、彼の舌に絡めとられた氷が、次の瞬間――


彼の繊細な指で、オレの唇に押し当てられ――口の中へと入れられた。


「続きは後でな」


口の中で、彼の舌と交わった氷が、溶けてゆく。


ほんのりと、汗の味がした。



< 21 / 67 >

この作品をシェア

pagetop