淫靡な蒼い月
生命の味
彼の肌に当てた舌先が、辛さを感じとる。
舌先は、辛さを感じとるのだと、どこかで聞いた気がする。
「……海の味がする」
毛布の中で素肌を合わせたまま、あたしはそう、呟いた。
「シャワー浴びてないからな」
柔らかにあたしを抱いて、彼が微笑む。
「あなたの汗の匂い……好きよ」
少し頬を赤らめながら、あたしはそう言って、そっと彼の耳たぶを甘く噛んだ。
「しょっぱい?」
「――ん」
「俺も、さっき、感じたよ」
「何を?」
「海の味」
薄暗い、まるで倉庫のような狭い資料室が、あたしたちの愛の巣。
「さっき肩にキスした時、海の味がした」
――溶けてしまいたい。
もし、あたしたちにそれぞれ、海の味がするなら、いっその事、その海に還って溶けて一つになりたい。
ねぇ、あなた
あなたに、言わなきゃいけない事があるの。
あたしの薬指に、あなたとのリングが通る事がなくても、もう構わない。
あたしの体内の海に、あなたとの“生命”が宿ったから。
「ねぇ――」
あたしはそっと、彼の手を自分の腹部に導いた。
「あたしも、海なの。あたし自身が、生命の海なのよ」
そう言って、あたしは彼の首に腕を回し、そっと触れるだけのキスをした。
海の、味がした。